防衛省にパワハラがまん延する理由
軍隊はもともと体育会的な体質であるとはいえ、なぜこのような問題のある人物が左遷されるどころか、本流中の本流で出世していけるのだろうか。
防衛省の人事決定プロセスでは、将官に推される人物は「能力人格に優れ」と閣議に諮られるため、深く詮索されることはない。また、入隊間もない時の成績で人事管理上基本となる同期での序列が決まり、よほどのことがない限りひっくり返らない。つまり、初めの段階でいい成績をとり、上司の覚えさえよければ一般企業とは比べ物にならないくらいパワハラが温存される組織文化がある。
戒田氏も卒業した防衛大は年次が絶対的な差となるため、対等の人格として相手と接するよりは「俺の方がえらいのだから従え」という態度が普通となる。もちろん、一般的に軍隊とはそういうところだが、部下の人格や事情を細やかに考え柔軟に対応する能力が必要とされるのは言うまでもない。
パワハラになる言動も「服務指導の一環」
文春オンライン編集部を通じて防衛省報道室に戒田氏のパワハラについて質問したところ、なぜか1週間も待たされた挙げ句、以下のような回答があった。
〈個別の部隊等における退職状況の詳細についてはお答えを差し控えさせていただきますが、第1空挺団の依願退職者が自衛隊全般の状況と比べて特に多いということはありません〉
〈(借金と貯金の報告について)具体的にお答えすることは差し控えさせていただきますが、一般論として部下、隊員の身上把握のため服務指導の一環として必要な範囲で借財について情報を聴取することはあります〉
民間企業であれば間違いなくパワハラになる言動も「服務指導の一環」だという言い分だ。河野太郎防衛相も、この回答には目を通しているという。
防衛省と自衛隊は、今年3月1日から、パワハラやいじめに対する処分基準を引き上げている。その背景には、相次ぐ不祥事が自衛隊のイメージ悪化を招き、入隊を希望する若者が大幅に減っていることもある。それに先だって行われた記者会見では、河野防衛相も以下のように話していた。
「『パワハラ』、『いじめ』の件数が増えているということがございます。そういうものに対する処分の基準が少し甘いのではないかという疑問がありましたので、昨年から、それぞれ陸海空、あるいは内局に少し基準を厳格にすべきだと申し上げ、何回かキャッチボールをさせていただきました。基本的に、『いじめ』、『パワハラ』は根絶をしなければならないという大前提の中で、やはりルールをきちっと決める。それによって若い人に安心して入隊をしてもらうということは大事だと思っております」
このときの覚悟は、言葉だけのものだったのか。
もし戒田氏が人事教育部長に就任すれば、パワハラ幹部が出世し、被害者がもみ消される組織となり、陸上自衛隊は戦わずして崩壊してしまう。まさに国防の危機である。