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延々と続く鉄格子の中での生活

「おはよう」の声と同時に室内の電気が点けられ、2人の同室者は、すばやく起きて布団をたたみ始めた。詩織も、それを真似、機械のように起き上がって布団をたたみ、抱え、2人のあとに続いて所定の場所に収めた。まるで、先頭の1匹に続いていく蟻の行列のようだと思った。しかし、ここでは、そうやって行動するのが一番無難のようだ。誰の指揮や命令を受けるでもなく、黙々と動く。次は手分けして、房の中をすばやく片付ける。そのあと、鉄格子の外に出て、洗顔歯磨き、髪の毛の手入れをする。

 以来、警察の留置場、千葉刑務所、そして東京拘置所と移動はあったものの、詩織の、外界と遮断された鉄格子の中での生活は続いている。そして、これからも、まだまだ延々と続くのだ。

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火傷事件で逮捕後争われた争点

 傷害容疑で逮捕された詩織は、3週間後の06年2月28日に起訴、さらに同3月10日には茂へのインスリン投与による殺人未遂容疑で再逮捕される。

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 最初に、火傷事件で逮捕後争われた争点を、もう1度整理してみよう。

 千葉地裁の一審判決は、「熱湯を浴びせたのは詩織の故意によるもの」と認定している。

 判決文は「ガス台とダイニングテーブルとの間が1・23メートルであるから、通常、人が近くにきていれば十分に気配でわかるはずだ」とする。それを「イヤホンで音楽を聴いていたので気づかなかった」というのは「俄かに信じがたい」。さらに「茂の弟が、日記代わりにつけていたノートに“兄が被告人から梅ぼしをとって欲しいと依頼された”と記してあったこと。茂が入院してから1週間ほどたってから、茂に“自分がそばにいたことを被告人は知っていたはずだ”と告げられたこと。04年1月8日に“またやられるかもしれない。後を頼む”といわれたこと。これらの検察への(弟の)供述は十分に信憑性がある」と断定している。

 この判決に至る前、茂の弟の供述部分は弟が公判廷でも検事の質問に丁寧に答えている。06年10月の公判廷の様子を再現しよう。

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検事 (被害者茂が)熱湯をかぶったあと「自分でかぶったと言ってくれと言った」。これは誰の言葉?

弟 被告人です。

検事 (被害者が)梅(ぼし)を取らされるようになったのはいつごろから。

弟 火傷の1週間前から。梅を取りにいくのを子どもを連れに(中国に)帰る前日に急にやった場合にはウチの兄も疑うだろうから1週間前から習慣みたいにさせられた。

検事 ミョウガ茶を作っている鍋を動かす必要があったかどうかについてお兄さんはどういうふうに言ってましたか。

弟 動かす必要はなかった。食事の準備はしていなかった。コンロは1つは空いていた。

中国人「毒婦」の告白

田村 建雄

文藝春秋

2011年4月20日 発売