映画を作るにあたっては、3年にわたり綿密にリサーチを重ねました。原案の『身分帳』は昭和の終わり頃に書かれたものなので、いまの時代との相違点も多い。システムや法整備、刑務所を出た人たちのその後、それらが現在ではどうなっているか、ひとつひとつを検証していくような作業でした。
この物語の主人公である山川一、映画では三上という名のモデルとなった実在の人物はすでに亡くなっていますが、彼と生前かかわりのあった方たちに会い、北海道の旭川刑務所も訪ねました。
映画作りの裏側も描く
その他にも映画のスタッフとの付き合い方や限られた予算内で撮影する難しさなども、赤裸々に綴っています。この本を読んでくださった方はきっと、「映画って、うまくいかないことが多いんだな」と感じられるのではないでしょうか。ただし、映画の作り方や内幕に興味がある方にとっては、面白い内容になっているのではと思います。
映画の現場は関係者の映画に対する深い情熱と愛に支えられています。そこで働く人たちの多くは、映画づくりへの夢や渇望だけをもとにして、労働時間も待遇も厳しく、保証もない生活を受け入れてきたわけですが、そんな美談にも似た、働き手の「愛」に委ねた作り方が、もう限界を迎えつつある今の日本映画の現場のことなどにも、少しは触れてみたつもりです。
私自身は、昔よりはいまのほうが映画の仕事を楽しいと感じられるようになりました。一人きりで物を調べたり書いたりする時間がほとんどなので、他人と一緒に仕事をできる現場は、過酷でも私にとっては温かくて賑やかな場所なのです。こうやって良いことも悪いことも書くことによって、次の作品はより良いものにしようと意識する部分もあります。
私にとって書くという行為は、自分の思いを確認できるもの。書かないと立ち止まって考えることもないので、大切な思考の足跡といえます。
撮影=五十嵐美弥
◆ ◆ ◆
文芸ポータルサイト「小説丸」では、『スクリーンが待っている』について西川氏自身がつづるエッセイも公開中です。