「親日」的台湾の慰安婦ドキュメンタリー
いっぽう、2015年夏に台湾でスマッシュヒットを記録したのが、台湾人元慰安婦6人の現在の姿を追った『蘆葦之歌』だ。こちらの興行成績は、人口2355万人の台湾で150万NT$(約557万円)。中国でバケモノ的なヒットを飛ばした『二十二』と比べれば見劣りするが、テーマからすれば相当健闘している数字だろう。
いわゆる「反日」的なメッセージは『二十二』以上に薄く、過去の台湾の苦しい歴史と女性の人権問題を淡々と描いていくスタイルの作品だ。戦時中に台湾・花蓮に駐屯していた日本兵の「世話」を無理やりさせられていた台湾原住民の老婆が、童謡『ももたろう』をニコニコしながら日本語で歌っている映像は、日本人としてやはり複雑な気持ちにさせられる。
https://youtu.be/RT2BfO5Y8wY
※『蘆葦之歌』の予告編。作中ではよく日本語が出てくる。
私はこの『蘆葦之歌』も上映当時に台北市内の映画館で見たが、観客はやはり20~30代の比較的若い社会人が多く、席もかなり埋まっていた。近年の台湾では若い世代を中心に台湾人意識がいっそう強まり、「自国」の過去への関心も高まっている。日本統治時代の良い面も悪い面も、台湾人自身の歴史として向き合いたいという考えが反映されているようだ。
事実、2015年8月11日におこなわれた試写会には、慰安婦問題に熱心な馬英九元総統の所属政党である国民党のみならず、緑色陣営(台湾自立派)の民進党や時代力量も代表者を出席させている。日本人の目から見た台湾は「親日」的な国だと思われがちだが、日本への親近感や台湾人意識と、過去の歴史問題への厳しい視点は両立し得るものらしく、慰安婦問題は超党派的な関心事となっている。
ちなみに『蘆葦之歌』の実質的な制作者かつ出資者は、台北市内のフェミニズム団体・婦女救援基金会(婦援会)だ。私は2015年と2016年に同会に取材してみたのだが、彼女らは売買春や戦時性暴力など女性への人権侵害全般に反対という考えらしい。
つまり、日本軍の慰安婦だけではなく、イスラム国の性奴隷もベトナム戦争中の韓国軍兵士の婦女暴行も、果ては過去の中華民国軍の慰安所(軍中楽園)や現在の台湾国内の人身売買もそろって批判するという立場だ。ある意味で筋が通った主張ではある。
婦援会の代表者や広報担当者はいずれも本省人(台湾に祖先のルーツを持つ台湾人)で、中国や韓国の慰安婦支援団体との金銭面や人材面でのつながりはない。広報担当者は祖母が日本語世代で、毎年年末に紅白歌合戦を喜んで見ていたらしく、本人もすこし日本語を話せる。ほか、2014年に馬英九政権(当時)の対中政策に反対して起きた台湾の学生運動・ヒマワリ学運も個人としては支持する立場で、デモ会場に足を運んだという。
台湾では、いわゆる「反日」的とされるイデオロギーや、中国や韓国と政治的に濃厚なつながりを持つわけではない人たちの組織が慰安婦ドキュメンタリー映画を作り、それなりの商業的成功もおさめているということなのだ。