韓国と連携する中華圏の「慰安婦ブーム」
もっとも、個々の慰安婦ドキュメンタリー映画が(少なくとも制作の時点では)イデオロギー色が薄かったとしても、それらが話題になれば政治的な意味合いがついてくることになる。中華圏の各作品の関係者がヨコのつながりを強めることで、相乗効果によって国際的影響力が増幅されるほか、慰安婦問題の「総本山」である韓国との連携も深まっていく。
今年8月4日には、台北市内に台湾人慰安婦記念館(AMA MUSEUM)をオープンさせたばかりの婦援会の呼びかけで「慰安婦国際人権映画祭」が開催され、台湾の『蘆葦之歌』、中国の『二十二』、カナダの『THE APOLOGY』の各作品が上映されたほか、3作の監督が揃い踏みしての座談会が開かれた。
また、婦援会は8月14日の世界慰安婦記念日にも台北市内で記念活動を実施。この日には慰安婦問題とフェミニズムを主題にした台湾・韓国両国の高校生交流団も組織され、慰安婦問題について韓国との情報共有や活動の連携をはかる動きが出ている。
また、中国でも2015年12月、映画『二十二』の制作顧問でもある上海師範大学教授の蘇智良氏を館長として、南京市内に中国初の慰安婦記念館が開館した。市内にある南京大虐殺記念館の分館という位置づけで、旧慰安所の建物をそのまま展示施設に変えた形である。内装はかなり垢抜けた作りで、若い世代のインテリアデザイナーを使っているようだ。
当時、私が実際に行ってみたところ、こちらは韓国の市民団体の影響がかなり強いらしく、大戦当時に中国国内で撮影された妊娠中の朝鮮人慰安婦、パク・ヨンシム氏の姿をモデルにした巨大な彫像が建物正面にドンと鎮座していた。そもそもこの建物自体、2003年に日中韓の関係者が協力してパク氏の訪中をアレンジし、彼女の証言をもとにして場所が特定されたものだという。
映画の出来がいいだけに困る話
台湾にせよ中国にせよ、慰安婦ドキュメンタリー映画も慰安婦記念館も、現地の知識層の若者の感覚にしっくりきそうな形で作られているのが近年のトレンドだ。特に映画はエンターテインメントとして商業的に通用するクオリティのものが作られている。それらがさらに韓国をはじめとした第三国ともヨコに連携し、大きな影響力を生み出しつつあるのが昨今の状況である。
2016年3月には台北駐米代表処(事実上の台湾大使館)が、ワシントンで米国議員らを招いて『蘆葦之歌』の上映会を開いた。また、中国の『二十二』も、今年9月8日からアメリカで一般向け上映が始まっている。モノの出来がいいだけに影響力も大きくなるというわけだ。
現在から70年以上も昔の出来事である慰安婦問題は、ひとまずは「解決」したはずの韓国とは異なる国において21世紀型のスタイリッシュな装いをまとい、ソフトパワーを武器に逆襲を開始中。日本政府にとってはなかなか頭が痛い状況が、現在の中華圏で生まれつつある。