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東日本大震災「検証や教訓の共有は進んでいるのか」 『いちえふ』作者が細野豪志に聞く“政府の決断”

細野豪志氏、竜田一人氏対談#3

genre : 社会, 読書, 働き方

甲状腺の被曝で甲状腺がんが増えるという事実はない

細野 具体的なファクトについて、きちっと発信していこうと思っています。例えば、甲状腺の被曝で甲状腺がんが増えるというのは、専門家と話していても、統計上も全くない。原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)からもそれを繰り返し指摘されています。しかし、影響がないにも関わらず検査を続けることによって、子供たちが本当は必要のない不安を背負わされたり、手術をしていたりする過剰診断問題が起こっている。それはやっぱり見過ごせないですね。

※写真はイメージ ©️iStock.com

 

竜田 甲状腺についてはまさにその通りで、もう本当に検査を止めるべきだと、ことあるごとに私も言ってます。

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 除染土に関しては、結果的にあれだけ膨れ上がっちゃったものに対して、当時の真意が伝わらなかったことや、過剰な対応をしてしまったことへの反省というか。将来、放射線に限らずこうした大きな災害があったときに、世間の声に押されて過剰な対応を政府がしてしまわないよう、検証や教訓の共有は進んでいるんでしょうか。

どういう決断をしても問題は必ず起こる

細野 そこは危機管理に必ず付きまとうジレンマの問題でもありますが、まず非常時には色んな状況が特に複雑に絡み合っていて、「万能の解決策は無い」「決断までの制限時間が極めて短い」という前提があります。

©️文藝春秋

 例えば、原発事故が起こった直後は、高齢者の皆さんに避難してもらうかどうかも悩ましい判断でした。あのときも、高齢者の方々には残ってもらうべきだとの議論は官邸の中にもあったんですよ。ただ、そこで介護する人は若い方だったりもするわけです。若い人に残ってもらうとなると、今度はその人の子供はどうするのかという話にもなってくる。そうすると、年齢で分けるっていうのは現実的じゃないなと。

 だからといって、一日じっくり考えて検討しましょうというわけにはいかず、瞬時に決断しなければなりませんでした。どういう決断をしても問題は必ず起こるんです。状況により対応の順序や優先順位を付けなければならない。そこが危機管理の難しいところですよね。