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 作品をつくりながら加茂はこう思ったという。立ち入り禁止の境界があっても、日々そこに風は吹き、鳥は飛んでいて、動物が顔を出す。自然の側のふるまいはさほど変わらぬように見える。結局、事態の原因をつくったのは人間で、ゲートを設けたのも人間。行動や考えに影響を被っているのも人間だ、と。

加茂昴展示より

 そう言われると、大きな自然の中にポツリと置かれた看板は、人間の営みや存在そのもののように見えてくる。呆然としてそこに立つ姿が、どこかもの哀しい。

いろんな時代のことを入れ込んで

 佐竹真紀子の室でも、印象的な絵画作品と出逢える。全面が青に塗られた、鮮やかな絵。見ればこれが風景画であることに気づく。仙台市の海辺、震災で大きな被害を受けた荒浜地区を描いたものだという。

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佐竹真紀子展示より
佐竹真紀子展示より

 不思議なのは、建物の屋上に避難している人たちが描かれているかと思えば、浜辺でクジラ漁に勤しむ人たちもいるということ。どうやら同じ場所を描きながら、いろんな時代のことをごっちゃにして入れ込んでいるようなのだ。

 なるほど絵画には、一枚の表面に異なる時間軸のことを、いくらでも盛り込めるという特質があったのだった。佐竹の作品を眺めていると、荒浜という土地の記憶が目の前に立ち上がってくる。震災の被害はもちろん甚大ではあるけれど、これも長く続いていく歴史の一幕であるという視点が得られる。