祝・交流戦優勝!!! 長い低迷に苦しんできた僕らの愛するオリックス・バファローズが中嶋監督の元で実に11年ぶりの交流戦優勝を成し遂げた。さらには久々すぎていつぶりかも思い出せない貯金生活に入り現在まさかのパ・リーグ3位!中嶋監督のチーム改革が順調に進んでいる確かな手応えを選手もファンも感じている今日この頃だが、その新生中嶋オリックスにとって今や欠かせないピースとなったラオウこと杉本裕太郎が30歳にして覚醒の時を迎えている。

 55試合 打率.292 12本塁打 38打点 出塁率.355 得点圏.365 OPS.871。(6月12日現在)

 オリックス不動の主砲・吉田正尚と共に主軸を担い、チーム屈指、いやパ・リーグ屈指のスラッガーに成長したと言っても過言ではない。だがここに至るまで杉本が歩んだ道のりはあまりに険しいものだった。

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杉本裕太郎 ©時事通信社

生え抜きのホームランバッターを育成するのに必要不可欠な覚悟

 徳島商業→青山学院大→JR西日本を経て2015年、24歳の時に指名順位最下位のドラフト10位でオリックス入団。ちなみにこの年のドラフトでは1位・吉田正尚、2位・近藤大亮、3位・大城滉二、5位・吉田凌などが入団。豊作の年となっている。

 吉田正尚が入団1年目から一軍で華々しく活躍する一方、下位指名の杉本裕太郎は二軍で48試合131打席28安打3本塁打11打点、打率.226、出塁率.262と地道に経験を積むも一軍ではわずか1試合3打席ノーヒット2三振。

 翌2017年26歳のシーズンは二軍で88試合327打席77安打8本塁打41打点、打率.269出塁率.348と大きく成長。一軍では9試合17打席2安打1本塁打2打点。打率.118ながらプロ初ヒットを初本塁打で飾り来季への希望をつなぐ年となった。

 だが2018年27歳シーズンは飛躍どころか散々なシーズンとなる。深刻な長打力不足&得点力不足が長年の課題であるはずのオリックスだがなぜか首脳陣は器用な小兵選手ばかりを重用し、スラッガー候補生の杉本はオープン戦の走塁ミス一発で懲罰降格となり与えられたチャンスはわずか1打席。シーズンでも一軍の少ないチャンスで3安打2本塁打8打点(満塁本塁打2本!)打率.250出塁率.357とスラッガーの素質を証明してみせたが1年間通して与えられたのはわずか7試合14打席であった。さらに二軍でも47試合125打席と出番は激減し、杉本裕太郎が首脳陣の構想外であることは熱烈なラオウファンである僕にも手に取るようにわかった。

「ラオウは今年限りで放出されるかもしれない。オリックスはなんてバカな球団なんだろう」。あの頃そう思わない日はなかった。杉本裕太郎のスラッガーとしての素質を信じていた一人として絶望的な毎日。それでチームが強くなっているならまだしも来る日も来る日も長打力得点力不足で負け続ける悲しさと言ったらもう。

 そんな風に僕が絶望するのには理由があった。ブーマー・ウェルズ、落合博満、池山隆寛、門田博光、石嶺和彦、清原和博、オレステス・デストラーデ、藤井康雄、ラルフ・ブライアント、トロイ・ニール、松井秀喜、中村剛也、T-岡田、山川穂高、中田翔、柳田悠岐、吉田正尚などなど40年近くプロ野球のスラッガーを愛してきた僕には、

「生え抜きのホームランバッターを育成するには一軍で300打席を捨てる覚悟が必要不可欠である」

 という強固な持論があるからだ。

 もちろん吉田正尚や村上宗隆、佐藤輝明のように初めから一軍で打棒が爆発するタイプもいる。だが総じて言えば、俊足巧打のアベレージヒッターに比べて本物のホームランバッターは育成に時間がかかる。プロ野球の一軍レベルのボールをフルスイングしてアジャストできるようになるまで長い時間がかかるからだ。

 一軍投手のボールに慣れ、力みが取れて自然体で打席に立ち、自分のスイングができるようになるのに必要な一軍での打席数が「300」。僕はそう信じている。

未熟な若者が二桁本塁打に到達するまでの流れ

 いくつか例を出したい。

〈柳田悠岐〉
1年目 6試合 5打席 0安打 0本塁打 0打点 打率.000 出塁率.000
2年目 68試合 212打席 48安打 5本塁打 18打点 打率.246 出塁率.300
3年目 104試合 337打席 88安打 11本塁打 41打点 打率.295 出塁率.377

〈松井秀喜〉
1年目 57試合 203打席 41安打 11本塁打 27打点 打率.223 出塁率.296
2年目 130試合 569打席 148安打 20本塁打 66打点 打率.294 出塁率.368

〈中田翔〉
2年目 22試合 38打席 10安打 0本塁打 1打点、打率.278 出塁率.289
3年目 65試合230打席 49安打 9本塁打22打点、打率.233 出塁率.291
4年目 143試合572打席125安打18本塁打91打点、打率.237 出塁率.283

〈山田哲人〉
2年目 26試合 49打席 11安打 1本塁打 1打点、打率.250 出塁率.327
3年目 94試合396打席 99安打 3本塁打26打点、打率.283 出塁率.354
4年目143試合685打席193安打29本塁打89打点、打率.324 出塁率.403

〈坂本勇人〉
1年目 4試合 3打席 1安打 0本塁打 2打点 打率.333 出塁率.333
2年目 144試合 567打席 134安打 8本塁打 43打点 打率.257 出塁率.297
3年目 141試合 640打席 178安打 18本塁打 62打点 打率.306 出塁率.357

 以上5人はほんの一例でありそれぞれスラッガーとしてのタイプも違うが、未熟な若者がプロの世界で悪戦苦闘しながら300打席を経験、成長し二桁本塁打に到達するまでの流れがなんとなくわかっていただけると思う。

 ここで重要なのは、指揮官が長距離打者の才能を見抜き、二軍でしっかり基礎を鍛えたら間髪入れずに一軍に抜擢し、モノになるまでどんな失敗を繰り返しても歯を食いしばって耐え、一軍300打席を捨てるつもりで与える覚悟があるかどうか。それがホームランバッターを育てられる球団と育てられない球団の違いだと僕は考えている。

 ホームランバッターを育てる仕事は、水を張った洗面器から顔を上げない勝負によく似ている。指揮官が苦しさに耐えられず水面より顔を上げた球団から負けていく。オリックスは残念ながら、ここ20年間、継続的にスラッガーを育成できる球団ではなかった。

 そして、いくら脇役を揃えバントや小技で1点をかすめ取ったところでスラッガーのチャンスでの一発はすべてを粉砕する。それがホームランの力だ。オリックスファンはこの20年間、生え抜きスラッガー育成をほとんど放棄し、攻走守すべてに中途半端な即戦力社会人野手の起用に終始して沈没していったオリックスの悲惨な末路をイヤというほど見てきた。