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《現役引退》「ネットで知りたくないことまで耳に」「東京オリンピックがあってもなくても…」 大迫傑が“快適な生活”を捨ててケニアで合宿をした理由

『決戦前のランニングノート』より#1

2021/08/07

source : Sports Graphic Number

genre : エンタメ, スポーツ, 読書

note

大迫選手が主宰するシュガーエリートのキャンプ

 火曜日と金曜日はワークアウトの日。車で15分くらい行ったところにあるロードコースか、車で1時間行ったところにあるトラックで練習をしています。

 土曜日か日曜日はロングラン。朝から2時間半~3時間ぐらい走って終わる日もあれば、午後も軽く走ることもあります。

©iStock.com

 月に1度は、飛行機で1時間ほどのところにあるナイロビに1週間ぐらい滞在します。標高が1700mとイテンよりも低くなるので、ここでは、1000mを2分30秒ペースで12本行うなど、主にスピード練習をしています。ナイロビには日本食レストランもあるし、滞在中はマイレージを落とすので、半分は息抜きの時間にもなっています。

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 ハードな練習を続けるにはモチベーションも大切です。練習が終わると大体1時間ほどサウナに入るのですが、この後のビールが僕の最高のご褒美です。最高すぎて、最悪なぐらい(笑)。ただしケニアは標高が高いので、酔いやすいし、リカバリーも遅い。先日、標高3100m地点にあるニュージーランド人のゼーンのキャンプで飲んだときは、すごく酔っ払ってしまって、その後数日間は本調子じゃありませんでした。そんな失敗もしましたが、普段はなるべくダメージが残らないように水もたっぷり摂って、ビール1~2本に抑えるようにしています。

 今回は僕が主宰する「シュガーエリート」のキャンプ地をケニアにつくりたいと思い、練習の合間に物件探しもしています。正直、ケニアじゃないと学べないようなことはないと思いますが、日本を飛び出すことで学べることはすごくあると思っているからです。

2月24日~26日の大迫選手の日記:日頃のトレーニングの中で大切にしているのは、生活の一部として合宿を行うこと、だからこそ3~6ヶ月という長期間を合宿期間にできる。今回ナイロビに行ったのもリラックスするという意味もあった。……(一部抜粋)

 僕の場合は、前回ケニアで合宿をしたとき、トレーニングや日常生活でいろいろな人にお世話になって、彼らのおかげで日本記録を更新することができました。ところが彼らはなかなか雇用がないため、生活が安定しない。コロナ期間中、2カ月に1度ほどクレメントの生活費のサポートをしていたのですが、もっと長い目で見て、僕は彼らに何ができるのだろうと考えていました。

 結果、こちらにシュガーエリートのキャンプを作れば、日本人選手の強化にもなるし、ケニア人アスリートの雇用や生活保障、社会貢献にもつながると気づきました。

 こういうことは日本にいたら知ることができないし、言葉で伝えても、自分が経験しないとなかなか響かないと思っています。トレーニングはもちろん非常に大切なことですが、人としても豊かになれる貴重なきっかけを与えてくれるのがケニアなのです。

 もちろん同じ環境にいても、気づく選手、気づかない選手がいると思いますが、若い選手たちにも何かを感じてもらえることができるのではないでしょうか。

 ただ物件探しは金額をふっかけられたりして、現地以外の人がキャンプ地をつくる難しさも痛感しました。これは今後、僕がケニアで解決すべき課題になるでしょう。

《現役引退》「ネットで知りたくないことまで耳に」「東京オリンピックがあってもなくても…」 大迫傑が“快適な生活”を捨ててケニアで合宿をした理由

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