松本伊代、早見優、河合奈保子、斉藤由貴
近田 しかし、聖子と明菜に限らず、80年代を迎えると、いわゆる職業作曲家の活躍する場所がどんどん減ってくるんだよね。
──そんな中、京平さんは孤塁を守るがごとく、聖子・明菜を除く女性アイドルたちに次々とヒット曲を提供します。松本伊代の「センチメンタル・ジャーニー」(作詞:湯川れい子/昭56)、早見優の「夏色のナンシー」(作詞:三浦徳子/昭58)、河合奈保子の「エスカレーション」(作詞:売野雅勇/昭58)、柏原芳恵の「ト・レ・モ・ロ」(作詞:松本隆/昭59)、小泉今日子の「なんてったってアイドル」(作詞 : 秋元康/昭60)、斉藤由貴の「卒業」(作詞:松本隆/昭60)......。枚挙にいとまがない。
近田 とにかく粒揃いなんだよね。この辺りの楽曲で京平さんは、萩田さんと船山さんに続く第3世代のアレンジャーを起用し始める。
──この当時のクレジットでは、鷺巣詩郎、大村雅朗、武部聡志といったプロパーのアレンジャー以外に、佐久間正英、茂木由多加といったミュージシャンの名前も目にします。
近田 佐久間と茂木は、いずれも四人囃子というプログレ色の濃いバンドの出身。俺、2人とも仲良かったのよ。シンセサイザーを上手く扱えるという意味で、重宝されたんじゃないかな。デジタルなポップスについては、餅は餅屋に任せたんだと思う。
──時代の変化に対する敏感さが、ここにもうかがえますね。
近田 そういや俺、つい最近になって、「センチメンタル・ジャーニー」の元ネタが何だったのか気づいたんだ。あれは、ギルバート・オサリバンの「アローン・アゲイン」 (1972年)だよ。
──そんな有名な曲をネタにしてたんですか? ちょっとにわかには共通性が浮かびませんが。サウンドのテクスチャーがまったく違うし。
近田 メロディーラインを注意深く解析してみると、納得できると思うよ。ぜひ、読者のみなさんもお試しください(笑)。しかし、松本伊代のあの風変わりな声は、まさに京平さん好みだよね。平山三紀、郷ひろみのラインに位置している。