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 日本の北海道で発生しているエキノコックス症の原因は多包条虫である。単包条虫は全世界の主に牧畜の盛んな地域に分布しているが、日本には分布していない。

 北海道では、1925年ごろ千島列島から礼文島にアカギツネが持ち込まれた際、一緒に入ってきた多包条虫によって多数の島民がエキノコックス症にかかった。その後、強力な撲滅対策で流行は終息したが、1965年には根室市で患者が発見され、以後、北海道の全域に流行が拡大して現在に至っている。このときの侵入経路は礼文島とは別で、千島列島から流氷に乗って渡ってきたキタキツネによって持ち込まれたのではないかとされている。

エキノコックスの一生

 エキノコックス(以降、北海道の多包条虫について書く)は一生で二つの宿主を必要とし、成虫はキツネやイヌなど主にイヌ科の獣を、幼虫は主に野ネズミを宿主としている。成虫がキツネの小腸で卵を産み、キツネの糞と共に排泄された卵は、キツネの体毛に付着し、あたりの草地を汚染し、川の流れに乗って広がり、さらには埃と一緒に空中へと舞い上がる。

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エキノコックス(多包条虫)の成虫 イラスト:佐藤大介

 この卵を野ネズミが口にすると、ふ化した幼虫が主に肝臓に移動して袋状になり、その袋からさらに小さな無数の袋が出てきて、塊をつくりながら増殖する(この幼虫を多包虫という)。そして、感染から1~2か月で、袋の内部に「原頭節」と呼ばれる成虫の頭部が大量につくられる。

 多包虫は肝臓から腹腔内のほかの臓器、胸腔、脳などに転移し、体内に数百万もの寄生虫の頭部パーツを抱いた野ネズミができあがる。この野ネズミがキツネに捕食されると、多包虫から大量の原頭節が出てきて、キツネの小腸に固着する。直後は頭部しかないが、やがて頸部と複数の体節がつくられていき、1か月ほどで体長2~4ミリの成虫になる。

 成虫の後端の節には200個ほどの卵が詰まっており、寄生虫はこれを順次切り離し、節を再生しながら、卵をばらまき続ける。一匹の成虫が産む卵の数はそれほど多くはないが、いかんせん頭数が多いので、キツネの体から排出される寄生虫の卵は膨大な数となる。