文春オンライン

大統領夫人と製造した“シャブ”を日本へ密輸した黒幕…石原裕次郎のクラスメイトだった男による「覚醒剤輸入作戦」の実態

『覚醒剤アンダーグラウンド』より #1

2021/11/02
note

 彼は和久井の賭場で、同じく賭場の常連だった和久井の先輩である右翼団体・日本皇民党の稲本虎翁とも知り合ったという。そもそも稲本虎翁は、皇民党を作る前は白神組の幹部で、和久井の先輩にあたり、和久井が紹介したそうだ。

 白神組には“影下のマー坊”という稲本虎翁の兄弟分がいた。影下は、若い頃から麻薬(ヘロイン)で有名な五島組の連中と付き合い、「香港・台湾・タイ・フィリピンにシノギの件で行っていた」という。

 ヤクザは当時、和久井いわく麻薬・保険金殺人・臓器売買を当たり前のようにシノギにしていた。殺人事件で7年間服役した影下は出所後、白神組に戻らずヤクザをやめて密輸・密売などの非合法商売に走った。ゆえにフィリピンにも頻繁に飛んでいたそうだ。

ADVERTISEMENT

「フィリピンへは最初、五島組のルートで行ったと聞いている。そして香港、台湾、タイなどと同様にフィリピンにも拠点を作った」

 ともかく、3人は和久井の紹介で自然に出会い、影下と渡辺は2人で頻繁にフィリピンへ出向くようになる。

「コレを売って返済しろ」借金返済の代わりに5キロの覚醒剤を…

 渡辺はカネになるなら何でもする男だった。また先物取引の営業課長であることから、多くの上客を抱えていたばかりか、口八丁手八丁で詐欺まがいの販売をする天才でもあった。

「上客を温泉に連れて行って、シャブを与えて女を抱かせ手籠めにしちゃう」

 ヤクザから仕入れたシャブで客を溶かしたと和久井は言った。シャブはあくまで先物商品を売る道具に過ぎなかった、まだこのときは。

 覚醒剤の密輸に乗り出したのは、和久井に追い込みをかけられたからである。

「ワタナベゲンが仕手(先物取引)で失敗して俺の知り合いの男を大損させたんだ」

 渡辺の熱意とシャブにトロけて大金を投じた知り合いの男。〈万が一の場合は補填をします〉と署名入りで書かれた保証書が安心材料だった。が、あろうことか渡辺はその保証書を反故にした。

 そこで仲裁に入るのがトラブルコンサルタントの和久井だ。知らぬ存ぜぬを貫く渡辺に苛立ちながらも、ある妙案を思いつく。

「また俺の賭場に誘ってポンコツをかけた」

 ポンコツ。イカサマを現すアングラ・カジノ用語である。ギャンブル中毒の渡辺は見事に借金だらけになった。

 追い込まれた渡辺に、和久井は先物大手の元課長の手腕を見込んで言った。

「コレを売って返済しろ」

 逮捕時に押収を免れた、大阪の社長の工場に残っていた5キロの覚醒剤だ。しかしキリトリ依頼から数ヵ月後、渡辺は西田三郎商店を辞め國粹会の山田政雄と組み東京・兜町で小さな証券会社を始めるなど裏稼業から足を洗おうとしている時期だった。