彼女とともにHYBEにヘッドハントされたのは、宮脇とともにIZ*ONEで人気メンバーだったキム・チェウォンと見られる。クォン・ウンビと同じウリム所属だった彼女は、契約満了を経てHYBEに移籍した。チェウォンはRocket Punch加入が有力視されていたが、HYBEにより大きな可能性を見たのだろう。予想されているのは、宮脇とチェウォン、そして『プデュ48』で後半まで残ったホ・ユンジンなど複数の新人を加えた新ガールズグループだ。
HYBEは、近年TOMORROW X TOGETHER(TXT)やENHYPENなどといった男性グループを生み出し、さらに複数のプロダクションを買収したり、fromis_9を完全移籍させたりするなど、急速な業務拡大を図っている。これは遠くない未来にBTSメンバーの兵役による活動停止が待ち構えているからだ(詳しくは「ポストBTS時代を見据えたHYBEのグローバル戦略」2021年9月24日)。
宮脇咲良とキム・チェウォンによる新グループもその一環だ。彼女たちは“BTSの妹分”として、グローバルマーケットを狙った展開をすると見られる。
もはや日本はポップカルチャー後進国
IZ*ONEの元メンバー12人の動向から見えてくるのは、K-POPが人材の流動性を高めていることだ。韓国芸能界は、自由貿易が進むグローバル市場では当然の人材獲得競争を実践している。00年代、韓国のサムスン電子やLGは、日本の家電メーカーの技術者をヘッドハンティングしてテレビ受像機で世界のトップに立った。いま東アジアの音楽シーンで起きているのは、あのときと同じことだ。
K-POPは宮脇咲良にIZ*ONE加入のチャンスをもたらし、その3年後には世界最大の音楽プロダクションへの移籍を導いた。彼女が今後目指すのは、より積極的なグローバル活動だ。それは48グループではけっして見ることのできない風景だ。
逆に、いまわれわれに問われるのは、なぜ日本の芸能界は宮脇咲良を失ってしまったか、ということだろう。
00年代以降、ジャニーズやAKB48による歪なヒット戦略や地上波テレビなどのメディアの怠慢、そしてオリコンのヒット指標の機能不全によって、日本の音楽業界や芸能界は長らく閉塞状況を続けてきた。結果、現状に甘んじて前例を踏襲することばかりが横行し、育成や抜擢を怠ることで個々人の能力を軽視し続けた。
たとえば、いまも日本では「23歳でアイドル再デビューは厳しい」など、宮脇に厳しい声が投げかけられる。だが、そもそもそれは先入観に基づいた古い認識でしかない。前例がないなら、前例を作ればいいだけの話だ。イノベーションはそうやって始まる。
宮脇咲良のK-POPへのUターンは、日本芸能界に対して強いアイロニーとなって跳ね返ってくる。有能な人材が未来を切り拓くために選んだのは、日本ではなく韓国だったからだ。ポップカルチャーにおいて、もはや日本はかなりの後進国であることを強く自覚したほうがいい。