「プライマリー・バランス(基礎的財政収支)の状況に一喜一憂しているだけでは、だめなのです」

 新聞、テレビ、ネットと各方面で話題を呼んだ「財務次官、モノ申す『このままでは国家財政は破綻する』」(「文藝春秋」11月号掲載)。

 ベストセラー『人新世の「資本論」』(集英社新書)の著者、斎藤幸平氏(大阪市立大学准教授)は、矢野論文が「庶民の感覚とのズレが反発を生んだ」と指摘すると同時に、「財源の問題に一石を投じた意義は大きい」として、こう論じる。

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「将来、何が起こるのかを踏まえ、『何に対して、国のお金をどれだけ使うべきなのか』『その財源をどんな形の税で、誰からとるのか』というところまで、国民一人ひとりが考え、議論に参加するということが『財政民主主義』の基盤だということを重視したい。つまり、限られた予算があるからこそ、教育や医療、再生可能エネルギーを重視するのか、それとも軍事や大企業や原発への補助金を優先するのかで、論争が起き、民主主義が育まれるのです。

斎藤幸平氏(大阪市立大学准教授)

 ところが、反緊縮的『バラマキ合戦』で、『軍事も教育も、足りないところへはどんどん出せばいい』という『国のお金に無頓着な社会』になってしまったら、無駄使いや縁故主義が蔓延し、民主主義の基盤は崩れてしまうでしょう。私はそうなることを最も危惧しています」

 斎藤氏が「ポスト・コロナ」の世界的な政策課題と指摘するのは、「人新世の危機」と呼ぶ2つの大きな危機。それは「貧富の格差」と「気候変動」だ。欧米では、この2つが大きなテーマとなって政治の議論が活発化している。

 総裁選で岸田首相が打ち出した「金融所得課税の引き上げ案」は、まさに貧富の格差問題に応える政策の1つであり注目を浴びたが、早々に引っ込めてしまった。