1ページ目から読む
2/5ページ目

KOC優勝の空気階段に感じた“うらやましさ”

「普段の自分に近い」と言っても、それはM-1から自由になったという意味ではない。M-1のことが頭をよぎってしまい、夏に海に行くことにも罪悪感があると伊藤は語った。

 漫才師である限り、M-1から逃れることはできない、戦わなければいけない。それが現代に生きる芸人のさだめだとするなら、なぜ優勝しなければならないのか。売れることが目的なら、優勝せずとも売れているコンビはたくさんいる。伊藤は「優勝をきっかけに売れたいとかはない」とも言う。 

 オズワルドの同期であり、先のキングオブコントで優勝した空気階段の話題になった時、「なぜ優勝しなければならないか」という問いの答えを伊藤がつぶやいた。

ADVERTISEMENT

「(空気階段が)優勝したってことはこいつらもう出なくていいだってちょっと思いました。M-1って大会は大好きだけど、でも本来は何回も出るもんじゃないじゃないですか」。 

 M-1優勝は「テレビで売れる」ためのものではない。M-1優勝はM-1から卒業するための唯一の道であると。

オズワルド・伊藤俊介氏 ©文藝春秋

 最初の決勝で「このままでは勝てない」と悟ったオズワルドは、漫才以外の場所でのキャラを確立しそれをネタに重ねた。そして畠中のサイコなボケと、伊藤の刺さるフレーズツッコミが過去イチのおもしろさと分かりやすさをもって昇華したのが、今年のオズワルドの1本目だったのだと思う。

 それまで「どう評価していいかわからない」という苦悩を滲ませながらジャッジしていた審査員全員が初めて気持ちよく高得点をつけた瞬間であり、オズワルドがM−1に「出なくてよくなる」唯一の道を引き寄せたと誰もが思った。 

「M-1対策は『全力でやる』だけ」と語った錦鯉

 一方の錦鯉。おもしろさにルールはなくとも、M−1にはM−1だけのルールがあることは、都市伝説のようにささやかれている。ボケの数はこれくらい、固有名詞は出さない、アドリブはNG……etc。M-1で勝つための傾向と対策について聞いた時、錦鯉・渡辺はこう答えた。

「M-1対策としては『全力でやる』だけですね。こういうのが審査員に受けるとか、こういうのはやっちゃだめっていうのが僕ら全然わからないので」「(対策を)やれたらやりたかったと思います。でもぼくらはできないんですよ」(『日刊サイゾー』2021年12月19日) 

 準決勝進出が決まった直後に行った錦鯉・渡辺隆のインタビュー、渡辺は困ったような顔でそう言った。