緻密で精度の高い笑いが求められる舞台で、相方はいつ何を巻き起こすか分からない“自然災害”。しかしそれを御する渡辺には焦りやイラつきは全くないというのも驚きだった。R-1王者とキングオブコント王者に「オールマイティ」と言われる程の有能な渡辺が「自分の求める笑いはコレじゃない」と葛藤することはなかったのだろうか。
「雅紀さんとコンビ組んでからはないですね。34歳くらいでした。とりあえずお客さんを笑わせたいという気持ちの方が強いんで。どう思われるかというよりそっちの方が大事になってきました。それは相方が雅紀さんだったからかもしれない」。
錦鯉が行き着いた、2つのキーワード「諦め」・「伝える」
長谷川のおもしろさを世に広めたい、とにかくお客さんを笑わせたい。その道の途中にM−1があり、だからこそ対策は「全力で」のみ。渡辺はこの時錦鯉というコンビを考える上でヒントになるキーワードを2つ語っている。それは「諦め」と「伝える」。
中年の星は不屈の精神でM−1決勝に辿り着いたわけではなかった。
「今より20代の頃の方が不安でした。周りもどんどん売れていくし。ただおっさんになるとそれにも慣れていって、後輩っていうのが先に売れるもんだっていう気分になるんです」「『諦める』っていうのは、一回台風を通過させてから掃除するみたいな感じですね。とにかくいかせちゃえいかせちゃえ、みたいな。その後瓦礫を掃除すればいい」。
思い通りにならない相方にも、思い通りにならない人生にも、渡辺は諦めることでその先の道を拓いてきた。若い頃求めた尖ったおもしろさやカッコいい売れ方を諦め、手放した時に気づいた「伝える」ことの大切さ。
「若い子とかに顕著だと思うんですけど、『うわ、めっちゃ面白いことやってんのに全然うけてねぇな』みたいなのをよく見る。そこをわかってるやつは、売れていくなっていうのをずっと見て来た感じあります」「その伝えるすべは年取ってからの方が色々わかるかなというのはありますね。かっこつけたいとかもありますからね、若いころは」。