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最終決戦のネタで見せつけた「伝える」すごさ

 錦鯉の「伝える」すごさは、最終決戦のネタにあった。「猿を捕まえたい」と息巻く長谷川が民家に突入し捕まえたのは猿ではなくおじいちゃん。間違いに気づき、おじいちゃんをすげなく捨てる長谷川に「おじいちゃんっていうのは、こうやって、頭を最後にそっと……」とパントマイムで「正しいおじいちゃんの寝かせ方」をレクチャーする渡辺。

 それはちょっと丁寧すぎるほど丁寧で、正直に言えば少しの違和感があった。しかしラスト、暴走を続けるモンスター長谷川を日大一高アメフト部のタックルで押さえ込み、優しく寝かせる渡辺。長谷川の頭を最後にそっと床に置いた。 

 あの丁寧すぎるフリがあったからこそ、生きたオチだった。カッコよさより洗練さより、多くの人にちゃんと気づいてもらう、「伝える」ことに重きを置いた錦鯉の、ネタに対する思いが集約されていたように感じた。そして荒れ狂う自然にはなす術はないとインタビューで語っていた渡辺が、その自然を体当たりで止めに行ったところがファーストラウンドとは違うところ、まさにM−1の「2本目」だった。

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©山元茂樹/文藝春秋

「錦(鯉)さんの猿を見た時点で今日ここまで積み上げてきたものが全部ゼロにされた」とは、M−1終了後に配信された『M-1グランプリ2021 世界最速大反省会』(GYAO!)でのオズワルド伊藤の弁。ミルクボーイの後でもマヂカルラブリーの後でも決してペースを乱さなかったオズワルドがM−1で初めて見せた動揺だったかもしれない。 

より多くの人を笑わせるために、なくてはならないアンテナ

 「誰も傷つけない笑い」なんてものはたぶんない。だけど今の芸人たちは誰かを傷つけるかもしれないという芸人のさだめに自覚的で、その感覚は常に更新されている。

 それは「正しさ」とは違う。おそらく日本で一番多くの人が見るであろう演芸番組で、より多くの人を笑わせるためになくてはならないアンテナ。そして今年のM−1は、「誰も置いていかない笑い」を拠り所にしたコンビがその栄冠を勝ち取った。

 錦鯉・長谷川がネタの最後につぶやいた「ライフ・イズ・ビューティフル」。インタビューで「優勝しなきゃ終われない」と言ったオズワルドに、「どうせ最後は死ぬし」と言った錦鯉に、この4分に一年の全てを捧げる全ての芸人に、それは相応しすぎる言葉だった。