『機動警察パトレイバー』や『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』など国内外で絶賛されるアニメ映画を作り続ける押井守監督。そんな監督が「絶対に乗り越えなければならない壁」として仰いだ、1人の映画監督とその作品とは? 監督の極私的映画史50年分を綴った『押井守の映画50年50本』(立東舎)より紹介。
「エースをねらえ!」と「あしたのジョー2」で演出を学んだ
――遂にアニメ作品の登場です。
押井 出崎(統)さんの『劇場版エースをねらえ!』と『劇場版あしたのジョー2』は、僕にとっては同じ映画なんだよ。『エースをねらえ!』で見せてもらった出崎演出の集大成が『あしたのジョー2』。だからセットで語ることになるけど、1981年の1本としては間違いなくこれ。出崎演出の本質みたいなものをこの2本で学んだ。
――『うる星やつら2ビューティフル・ドリーマー』(1984)を演出する際の参考にしたのですよね?
押井 アニメを、どう演出したら「映画を見た気分になれるんだろう?」というテクニックの部分。テレビを大きくすれば映画になるわけではないし、お祭り気分のイベント・ムービーも映画ではない。僕は劇場デビュー作の『うる星やつらオンリー・ユー』(1983)で失敗しちゃって、ただのでっかいテレビになっちゃった。
そうならないために何が必要なのかを、この2本を繰り返し見ることで会得した。アニメーションを映画にするコツというのかな、逆に言うと、意識して演出しないとアニメーションは映画にならないんだよ。それを自分なりに確信して、ようやく実現できたのは、『ビューティフル・ドリーマー』ではなくて『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』(2008)。監督としての自在さを実感し、本当に自分で納得できるアニメ映画を作れたのは、『スカイ・クロラ』が初めてなんだよ。
――『スカイ・クロラ』には何があるんですか?
押井 主観的な時間が流れている。つまり「時間を描くこと」に成功している。普通のアニメーションには時間が流れていないんだよ。もちろん30分なら30分、2時間なら2時間の客観的な時間は流れているよ。だけど主観的な時間は流れていない。それはジブリ映画も例外ではない。
――主観的な時間、ですか。難しいですね。
押井 アニメーションは、キャラクターから風のなびきなどの自然物に至るまで、すべてが秒24コマの同じリズムで動いている。それが問題なんだよ。それが動画の本質であり、強みでもあるんだけど。実写の場合は、同じ24コマでも現実世界を切り抜いた残像なんだよ。残像として観客の記憶に残る。アニメは残像ではなく秒24枚の静止画だから、そのままだと時間が流れない。「リズミカルに動いているように見える」というだけ。
そのリズミカルな動きに上手いか下手かの差があるだけで、宮さん(宮崎駿)はリズミカルに動かすのが上手い。あらゆるシーンが見ていて気持ちがいいし、あらゆるカットが息づいている。宮さんは、あのリズムを我がものにしているよね。特殊な才能であり、あの人にしか作り出せないリズム。
――素晴らしいじゃないですか!