2020年11月、路上生活をしていた大林三佐子さん(当時64)が渋谷区幡ヶ谷のバス停前で死亡した事件。傷害致死の疑いで逮捕・起訴され、現在保釈中だった吉田和人被告(48)が4月8日、都内で死亡しているのが見つかった。飛び降り自殺と見られ、警視庁が詳しい状況を調べているという。
石を詰めたペットボトルで女性を殴打した理由について「彼女が邪魔だった」と語っていた吉田被告。来月17日に予定されていた初公判を迎えないまま、その生を終えた。いったいどのような人物だったのか。高齢の母への“偏愛”、隣人が明かした“問題行動”、事件発生直前の吉田被告の様子を報じた「週刊文春」の記事を再公開する。(初出:週刊文春 2020年12月3日号 年齢・肩書き等は公開時のまま)
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「お母さん、ごめんなさい……こんなことになるとは思っていなかった」
11月21日午前3時。東京・渋谷区の笹塚交番に出頭した中年男は、隣に寄り添う齢80の母に対し、すがるように頭を垂れた。
路上生活をしていた大林三佐子さん(64)が渋谷区幡ヶ谷のバス停前で倒れていたのは11月16日早朝のこと。間もなく外傷性くも膜下出血による死亡が確認された。その5日後、傷害致死の疑いで逮捕された吉田和人容疑者(46)は、犯行動機をこう語った。
「自分はボランティアでゴミ拾いをしていて、彼女が邪魔だった。(犯行)前日の散歩の途中、『お金を渡すからバス停から移動してほしい』と話をしたが、聞き入れてもらえなかった」
吉田は終戦直後から酒屋を営む地元の名士の家に生まれた。両親は山一證券に勤務していたが、父が脱サラして家業を継いだという。中学を卒業した吉田は20代で就職。しかし仕事は長続きしなかった。一家を知る居酒屋店主が明かす。
「父親は『和人は引きこもりのようなところがあるから心配。コミュニケーションが苦手だ』と話していた。その彼が酒の配達を手伝い始めたのは4~5年前。ある日、競馬好きの彼に『どの馬が勝ちそうなの』と聞くと、後日、競馬新聞を片手に『この馬かな』と嬉しそうな表情を浮かべていた」
息子の将来を案じていた父が亡くなったのは17年7月のこと。その後、吉田は母への偏愛を強めていく。