ブラックにならなければ経営が成り立たない
かといって、企業としても、利益を生み出すことができなければ潰れてしまいます。人件費負担が重くて赤字が続いているのであれば、誰かを解雇したり、船の修繕代金のような設備投資や修繕費用をケチらざるを得ないというのもまた経営判断としては出さざるを得ない面もあるかもしれません。
人の命を預かる輸送・運送業が、コスト削減の結果大変な事故を起こす結論に達するのもまた衰退する地方経済あるあるになってしまい、また、本当の意味でのブラック企業とはこういうことだとも言えます。ブラックにならなければ経営が成り立たないという言い訳が通るはずもありませんが、事故が起きない限り是正できない面もあるのだとすれば、これほど救いのないこともありません。
このような事故は、往々にして関係する事業者に業務の再点検をしろとか、遺漏なく改善しろとお上がプレッシャーをかけて業界の改善を促したり、新しい法律や条例ができて襟を正し再発を防止する方向に行くことになりがちです。この場合は、観光船や釣り船などを扱う傭船業界がやり玉にあがるのでしょうか。
日本経済の現状を強く感じさせられる残念な事例となった
しかしながら、私が見聞きする限りで言うならば、この手の安全を犠牲にする形で赤字企業が業務改善し黒字化しようとする事例が横行していることのほうが、観光船・傭船業界を締め付けるより大事なことじゃないかと思います。
しかも、企業再建を行うことは経済原則として偉いとされ、成功すれば経済媒体に持ち上げられる一方、地方経済においても「高齢者よりも若者に雇用を」という言説が正義と扱われることも多いのが実情です。
経験豊富な中高年のベテランを切り、過酷な現場でも文句を言わず働いてくれる未経験者を安く買い叩いて雇ったほうが、経営という意味では合理的と思う企業経営者は少なくありません。同じような危険を晒しながら、顧客の命を預かってサービスを続けている企業も多いのではないでしょうか。
人口減少や観光客激減による地方経済の厳しさはよく知られるところでもあり、そこに歯止めをかけると「地方に死ねというのか」という議論になりやすい面もあります。いい塩梅とは何かという悩ましい話が出てくるのも確かです。ただでさえ死にそうな北海道・道東経済のまっただ中で起きた事件だけに、ただ可哀想では済まない何かをすごく感じる事故です。
これはほんと腰を据えて解決策を考えないとどうにもならないぞ、と思わざるを得ないような、日本経済の現状を強く感じさせられる残念な事例になってしまいました。