海外の生産者への冷めた視線を再確認した
記者会見当日の夜、弁護士ドットコムが「『ユニクロが未払い賃金払って』インドネシアの製造委託先が倒産、4000人解雇」という記事を配信。タイトルの妙もあり、ヤフーニュースなどで多くの読者を集めたが、非難のコメントが殺到した。
〈ユニクロ正直色々問題あるがこれは違うと思う
ユニクロ一社だけなら色々問題あるのかな?と思ったが数社も取引あってそれをユニクロに支払わせようとするのは如何なものか?〉
〈これはいくら酷いファーストリテイリング社でも責められんよ〉
〈もしもユニクロがこれを了承すれば、同じようなケースでユニクロの製造委託先が倒産して賃金未払いが発生した時、常に請求されることになるだろう。
慈善事業でも無いし〉
私は“ヤフコメ”を読みながら、日本のものづくりの基礎を担っている海外の生産者への冷めた視線を再確認した。
私もこれまで『ユニクロ帝国の光と影』と『ユニクロ潜入一年』で、ユニクロの中国とカンボジアの委託工場の問題を取り上げて、同様の問題があることを指摘してきた。しかし、ユニクロの国内の労働問題と比べると、読者の反応ははるかに薄かった。
日本の読者の多くが共感しやすいのは、ユニクロの国内の従業員がひどい労働条件で働かされている事実や、宅配のドライバーが時間指定や再配達のために疲弊しているという問題提起だ。これには、「ひどい」「どうにかするべきだ」という声が多く上がる。一方、生産を委託している、資本関係もない海外の工場の場合、「それは、その国の労働問題であり、現地政府が責任を持つべき。発注先の日本企業に負担を求めるのは筋違い」という意見が多くを占める。
大手資本の多国籍企業には責任がある
しかし、世界のビジネスの現場では、委託した海外の大手発注元にも責任はある、という潮流に変化しつつある。
それには2つの出来事が深く関係している。
1つは、2011年に国連人権理事会が採択した〈ビジネスと人権に関する指導原則〉、通称“ラギー原則”である。
“ラギー原則”によると、これまでは、主に国家が自国民の人権を守る義務(duty)を負ってきた。しかし、大手資本の多国籍企業が、国境を越えてビジネスを展開するようになると、そのサプライチェーン全般において各国で雇用する人々の人権を守る責任(responsibility)がある、とする考え方だ。
例えば、ユニクロがインドネシアを含む東南アジアの工場と直接的な資本関係がなくても、ユニクロが力関係で圧倒的に有利な立場で取引をする以上、その国の労働者の人権に関してもそれなりの責任がある。一昔前のように、海外の工場に委託しているのでわれわれには関係ない、という態度はとれなくなってきていることを意味している。
もう1つの出来事とは、2013年に起きたバングラデシュの首都ダッカで、米ウォルマートや伊ベネトンなどが生産を委託していた下請け工場が入居していた商業ビル〈ラナ・プラザ〉が崩壊した事件だ。この事故では、3000人を超す死傷者が出た。これにより、国際的なアパレル企業と東南アジアの委託工場の関係に対する監視の目が厳しくなってきた。