つまり、ユニクロにもインドネシアの下請け工場の労働環境に責任を持つ必要がある、という蘇さんの主張は、きわめて真っ当で常識的な内容なのだ。
国際人権問題の専門家はこう指摘する。
「アパレル業界でもH&Mなどの欧米企業は、東南アジアにあるILO(国際労働機関)の事務所などと連携して、自社の下請け工場の労働環境の改善に上手に取り組んでいます。欧米企業は、ゲームのルールが変わるのに合わせて迅速に動く。残念ながらユニクロには、そうした変化は見られません」
ユニクロは2017年に入って、サプライヤーリスト(取引のある海外の下請け工場の名前と所在地の一覧表)を公開した。しかし、同社の柳井正社長が常々ライバルと公言するH&MやGAPなどの国際アパレル企業と比べると、はるかに遅れての対応となった。
さらに外資証券会社で働く証券マンはこう話す。
「最近、欧米の機関投資家の注目は、今までのように売上高や利益がどれだけ上がったかというP/L(損益計算書)よりも『Sustainableなのかどうか』、つまり持続可能なビジネスモデルなのか、という点に移ってきています。発展途上国の人材や資源を使いつくすような企業からは投資を引き上げるという傾向も顕著になってきました」
ドイツのアパレル業者は、すでに金銭的な負担をしていた
そうした厳しい欧米社会の問題意識に応えるように、欧米のアパレル企業は行動を起こしている。
例えば、PTキゾン(PT Kizone)というインドネシアの工場が、2011年に倒産した際には、約2800人が失業して、約330万ドルの未払い賃金などが発生した。結局、主要な発注元であったアディダスやナイキ、ダラスカウボーイズが、2013年に入って、応分の金銭的な負担をしている。
日本のマスコミでは報じられていないが、今回のジャバ・ガーミンドのケースでも、ユニクロと同じく発注元の1つであったジャックウルフスキン(本社ドイツ)は、すでに発注量に応じた金銭的な負担をしている。*Fair Wear Foundation
これが、アパレル業界における世界的な潮目である。
ファーストリテイリング自身も、11月30日に開かれた株主総会の資料でこう書いている。
「サステナビリティ(持続可能性)を事業の判断基準の中核におき、事業成長と、社会・環境への配慮の両立をめざしています。我々の事業活動が、グローバルな環境問題、グローバルな社会問題の解決のために本当に役立っているのかを考え抜き、行動を起こしています」
さらに、「サプライチェーン全体で環境への配慮を徹底します」という項目では、「業界団体やNGOと協働し、取り組みを推進していきます」と記している。
ファーストリテイリングは、自身が目標として掲げる、持続可能で責任あるグローバル企業になれるのか。インドネシアの下請け工場への対応が、その試金石となる。