文春野球ではもう書けません、と改めて言うはずであった。
4年前に「中﨑翔太のストッキングとヒゲ」をテーマとしたコラムを生まれて初めて書いてから、幾度となくカープのコラムを文春野球で書いてきた。カープの本を出版し、カープの番組に出演し、Twitterではカープファンのフォロワーが増えた。カープファンであることを公にしていなかった私の生活は、文春野球によって大きく変わった。
なんでカープが好きなんだっけ…心がボッキリ折れた瞬間
しかし、次第にキツくなってきたのも事実である。有り体に言えば、ネタがなかった。ストッキングも帽子のつばもユニフォームの脇の穴も、もう書いてしまった。面白いことが見つからない。選手に直接取材ができる立場ではないから、テレビの画面越しに何か新しいネタを見つけなければと躍起になり、そうしているうちに「自分はなんでカープが好きなんだっけ……」というような気持ちになり、自信がなくなり、自信がないうちに書いたコラムがHIT数を稼げず対戦相手にボロ負けした今年の4月、私は「もう書けません」と担当者にLINEを送っていた。何かがボッキリ折れたのだ。ボッキリ折れる瞬間というのは、とてもハッキリしている。多分小早川毅彦にホームランを打たれた江川卓も、ボッキリいったに違いない。
「書くか書かないかは別として、まあ一度飲みにでも行きませんか、他のライターさんと一緒に」と、編集長から連絡があったのは先月のことだ。色々と世話になっておきながら、LINE一本で済まそうというのは余りに不義理である。直接会って「もう書けません」と改めて言おう。そう思った私はその誘いを承諾した。
指定された店は「プロ野球シーズンはカープの試合を全試合放映します!」と謳った鉄板焼屋で、当日の参加者でカープファンは私だけだったから、その配慮が身に染みて分かった。分かるだけに辛かった。
その日のカープの試合は東京ドームでの巨人戦で、店に着いた頃には初回の秋山翔吾の2ランホームランにより、2対0でカープがリードしていた。
遅れて登場した編集長は、私と旧知のライターNさんを前に、我々がいかに重要な書き手であるか、ということを伝えた。しかしそれを聞いても私の決心は揺るがなかった。自信がない者の耳には、賛辞が素直に届かないものだ。
この店の店主はカープのチャンスになると、お好み焼きを焼く手が止まって画面に釘付けになる。この日も3回表の1死1、2塁、5回表の2死満塁と、たびたびその手が止まるチャンスが訪れた。しかしいずれも無得点で、初回の2点以降は0の行進となっていた。一方の巨人は4回に中田翔の内野ゴロ、6回に大城卓三のスリーベースでそれぞれ1点を挙げ、ほぼ9割はカープファンとおぼしき客と店主は落胆した。私は瀬戸内レモンサワーのおかわりを頼んだ。