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「あなたが代表をやればいいんじゃない」と言われ、代表に就任

――中倉先生が8年前にLPSAの代表になったいきさつを教えてください。

中倉 日本将棋連盟との対立の問題が大きくなり、このままではLPSAはなくなってしまうという危機的状況でした。前の代表でタイトル経験者でもあった石橋(幸緒)さんが退会。代わりの代表を決めなくてはいけません。女流棋士創成期にたくさんタイトルをとっていた蛸島さんしかいないのではないか、代表になってほしい、と島井さんと二人で説得に行きました。

――代表のような役割は人をまとめる能力があれば、タイトル経験はなくても良いかと思うのですが、歴代の日本将棋連盟会長も、中原誠十六世名人、谷川浩司十七世名人など数々のタイトルを獲得したトップ棋士ばかりですね。そういうものなのでしょうか。

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中倉 はい。将棋界はそういう格は重視される世界です。私はタイトル戦経験はないし、代表をやる格じゃないと思っていました。それで蛸島さんにお願いしたら、若い人がやるべきだと。「あなたが代表をやればいいんじゃない」って言われました。一緒に説得にいったはずの島井さんまで、くるりと手のひらを返して「私もそう思ってました」なんて言い始めて驚きました(笑)。私が役に立つなら危機的状況をなんとかしたいという気持ちになりました。

 

根回しは悪いことだと思っていた

――代表就任直後の記者会見では、「日本将棋連盟との関係改善に努めたい」と話されていました。代表就任から8年、それは十分に実現できていると思います。どのようなことをなさったのでしょうか。

中倉 基本的なことではあるのですが、まず大事なのは相談や話し合いです。「LPSAとして独立したのだから、女流棋士の資格について勝手に決めて良い」という考えではうまくいきません。特に、将棋界全体に関わる大事なことは日本将棋連盟の理事の先生へしっかり相談してから決めています。女流棋士の資格については、研修会でのB2昇級、プロの女流棋戦にアマチュア枠で参戦してベスト8以上など、日本将棋連盟の規定を順守する形です。ただ、すべて同じでないのです。女流棋戦での規定の成績を収めた場合、年齢制限を日本将棋連盟より高い40歳未満にしています。

 大学で将棋を始めたとか、将棋との出会いが遅い人もいます。そのような方にも女流棋士になるチャンスを残したいと思いました。このようなことを理事の先生に説明したところ、年齢制限を40歳未満にすることを理解していただくことができました。

――おうかがいを立てるとか根回しをなさるようになったわけですね。

中倉 そうですね。私は長く将棋の世界で生きてきて、一般的な社会のことがよく分かっていませんでした。「勝負の世界」の感覚からすると根回しなんて悪いことのように思っていたのですが、それは違う。事前にきちんと相談すれば、思ったより了承していただいたり、むしろ応援してもらえることも多かったのです。逆に「何も聞いていません」という状態になると、うまくいくものもいきません。たくさんのことを学んだ日々でした。