小川 宗教票に限らず、組織票というものは、全体の投票率がどれだけ下がっても必ず投票してくれる有難い存在ですからね。
自民党ベテラン議員が洩らしたホンネ
島田 集票マシーンとして最も強力な力を誇るのは、やはり創価学会でしょう。公称827万世帯が会員ということになっており、新宗教としては日本最大の勢力を誇ります。ただ、のちほど詳しく述べますが、これはかなり誇張された数字です。
小川 教勢としては、池田大作名誉会長が前面に出ていた頃に比べると落ちていることは明らかですね。ただ、自民党にとって創価学会の力は依然として大きい。
先日、自民党のベテラン議員が興味深いことを教えてくれました。その議員の選挙区では有権者の5%程度の創価学会員がいるそうです。5%というと少なく見えるかもしれませんが、投票率が五割程度の中、彼らは必ず投票に行くので、実際の選挙では学会票の比重は2倍の10%になる。さらに、野党が統一候補を立てて1対1の与野党対決型になる最近の小選挙区では、ほとんどの学会員は自民党に投票します。その結果、蓋を開けると自民党候補者の得票数の2割前後を学会票が占めることになる。「これで創価学会にケンカを売れると思うか?」と、そのベテラン議員は言っていました。
宮崎 教勢は落ちていても、小選挙区制と低投票率によって、政治的影響力がかえって高まった可能性がある。そういう構造は公明党もかなりはっきりと意識していて、今回の参院選では、例えば京都の選挙区では公明支持層の一部の票が自民の候補者ではなく、日本維新の会の候補者に流れました。こういう選挙区が他にも幾つかあった。この背景には個々の選挙区の事情もあって、一概にはなかなかいいにくいのですが、自民圧勝が予測されるなかで、与党内で公明党が存在感をアピールしたともいえるわけです。
小川 昔は労働組合や農協、郵便局なども手堅く票が見込めましたが、そうした団体はどんどん瓦解していった。創価学会はそれらに比べて縮小のスピードが緩やかでした。その結果、他団体よりも相対的に政治的影響力を強めた面はあると思います。
北朝鮮には統一教会、中国には創価学会
宮崎 統一教会はかつての「勝共」「反北(朝鮮)」という政治姿勢ばかりが強調されていて、冷戦構造崩壊後、この教団が大きく変質したという点は軽視されがちです。かつての看板だった「反共」を降ろしまではせずとも控え目にし、代わりに「統一」や「平和」の看板を強く押し出すようになった。
はっきりいえば、この30年間、統一教会は北朝鮮の政権と極めて友好的な関係を保ってきた。単にトップが懇意だというだけでなく、「平和(ピヨンフア)自動車」など合弁事業を行ったり、国際社会の場で北朝鮮を支援してきた。
教団の持つ、こうした北朝鮮とのあいだのパイプは、拉致問題の解決を掲げる日本にとって魅力だったと思います。とくに2014年のストックホルム合意を北朝鮮が事実上破棄してしまった後は、拉致問題はまったくスタックしてしまった。何とかこのルートに突破口を見出そうとしたのではないか。そういう観点から取材してみると、幾つかのこれに関連する動きがみえてきます。
もちろん一般の議員と教団との関わりは、あくまで組織票や選挙ボランティアが目当てだったのでしょうが、政権のトップに関わる人々と教団の関係にはそれとは違った要素、思惑もあったのではないか、と思われます。
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座談会「統一教会と創価学会」全文は、月刊「文藝春秋」2022年10月号と「文藝春秋 電子版」に掲載しています。
統一教会と創価学会