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 この流れはさらに強化され、1963年、文部省が出版した『性と純潔』には、スポーツや芸術活動などで性欲を発展的に解消できるとする「性の昇華」という言葉が、はっきりと使われるようになりました。その後も、子ども向けの性教育冊子『中学生と思春期―男子編―』(1966年発行)、教師用の解説書『純潔指導』(1968年発行)と『生徒指導における性に関する指導―中学校・高等学校編―』(1986年発行)にも、おしなべてオナニーよりも「性の昇華」を勧める方針が記載されました。

 ところが、一般社会では性に対する認識は大きく変化していきます。1960年代頃には、処女性や童貞性を重視する「婚前交渉はご法度」といった認識と、「愛し合っていれば婚前交渉もかまわない」という認識が併存するようになりました。社会規範よりも、個人の選択が重要であるという価値観が徐々に広がりを見せてきたのです。

「オナニーは必要な行為」という考えが主流に

 それに伴って、書籍や雑誌のなかで「オナニー容認」の流れも生まれてきました。複数の医師などから「オナニーにやりすぎはない」「性欲はスポーツで解消できるものではない」など、性欲の昇華も否定されるようになりました。

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 この頃になって、ようやく男性の性欲に対するマイナスイメージが薄まり、気兼ねなく性欲を発散できる環境が生まれてきたのです。

 そして1979年10月に日本性教育協会から発行された専門誌『現代性教育研究』に、オナニーの効用についてはっきりと記述されました。オナニーは性欲をコントロールする上でも、自らの性をポジティブにとらえるためにも必要な行為であるという考えが、ようやく主流になっていきました。

 ところが、中学校の保健体育の教科書に「健康であれば、女子も男子もオナニーの回数で悩む必要はない」と記述されたのは、それから20年もたった2000年代のことでした。

2000年代以降の性教育の課題は

 明治時代に西洋から輸入された「オナニー有害説」が払しょくされるまでに、およそ100年以上がかかり、ようやくオナニーは気兼ねなくしてもいいことであると認知されるようになりました。

 とはいえ、これまで述べてきた通り、オナニーの正しい方法について学ぶ機会は、まだまだ不十分です。それは、間違ったオナニーが習慣になったことで起こる腟外射精障害に悩む男性の増加を見ても明らかです。

 避妊に対する知識や性感染症の知識と対策についても、間違った認識を持っている人が少なくありません。成人男性でも、知識が不十分なためにトラブルとなっている方が珍しくないのです。