文春オンライン

2022/10/07

genre : ライフ, 社会

 後者を可能にするようなシステムを前もって作っておかないと、本当の減災にはつながりません。このような本質的な問題を、私自身も「3.11」以降に、明確に意識するようになりました。

 いかに正しい知識でも、それをそのまま伝えるだけでは人がなかなか行動してくれないのは、阪神・淡路大震災でも、東日本大震災でもまったく同様でした。「3.11」では、海で巨大地震が発生しているのに、津波襲来の前に高台へ逃げなかった方が大勢いたのは先述した通りです。人々に避難行動を起こしてもらうことは、想像を超えて難しいのです。

 このような経験を重ねたことで、私は市民一人ひとりの「自発的な行動喚起」をより重視する立場へと移っていきました。市民同士による自発的な減災活動が継続するために何をすれば良いかを、いっそう考えるようになったのです。

「3.11」でも、専門家に頼らずに行動して救命に成功した例はいくつもあります。こうした人たちは、まず「自分たちでできること」から始めていました。そういう行動が、結果として大切な命を守ることにつながったのです。お上の指示を待っているだけでは、命は守れないのだということを忘れないでほしいと思います。

正常性バイアスを知り、シミュレートする

 どうしたら人は、自発的な行動を起こせるようになるでしょうか。「頑張る」「努力する」といった精神論を持ち出しても、本質的な解決にはなりません。自発的な行動を成功させるためには、まず自然災害に際して人間がどのような行動を取りやすいかについて、知っておく必要があります。

 心理学や社会学の面では、災害時の行動に関する数多くの研究があります。馴染みのない現象が突発的に起きたときに人々が陥りやすい行動を分析すると、心理学用語で「正常性バイアス」と呼ばれる心のあり方が影響していることがわかります。

 正常性バイアスとは、非常事態が起こっているにもかかわらず、「自分だけは大丈夫」あるいは「まさか自分に被害が及ぶはずはない」と思うことです。たとえば、自分が暮らす地域に津波警報が出されても、「ここまでは来ないだろう」と根拠なく思う心理です。結果、逃げ遅れて溺死する可能性が生じます。

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