関東大震災、阪神・淡路大震災、東日本大震災……。日本はこれまで幾度も地震による大規模な被害を被ってきた。だからこそ、減災における知識は広く伝えられてきた歴史がある。しかし、有事の際に正しい状況判断・行動をとることは本当に可能なのだろうか。専門家が語る、命を守るために本当に必要な認識とは。

 ここでは、京都大学名誉教授の鎌田浩毅氏が同大学で行った最終講義のもようをまとめた『揺れる大地を賢く生きる 京大地球科学教授の最終講義』(角川新書)の一部を抜粋。減災を成功させる最大の秘訣について紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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指示待ちではなく自発的になるには

 減災を成功させるために必要なことは、「たったいま、自分ができることから始める」です。誰かの指示を待って、それに従って行動すればよい、という受身の考え方ではいけません。非常時になってから行動を起こせばよい、という姿勢も違います。

 専門家は綿密なシミュレーションや過去の事例に基づいて、有益な情報を多く発信しています。それらの情報を十分に参考にしながら、自分たちが日常できることから開始してください。

 ここで私はよく質問を受けます。

「やる必要があるのは重々承知しているのですが、いそがしい日々の中でいつも後回しになってしまうので、どうしたらいいでしょうか」

 私の回答はこうです。

「自分の誕生日とか、防災の日の9月1日とか、まず日を決めて始めることです」

 何をきっかけにしても良いので、その日に防災グッズを揃えるとか、賞味期限の近い非常食を交換するとかします。これに関してはネット検索すると、たくさんの人が面白いアイデアを提供しています。

 大災害が過ぎた後にも、災害に向けた準備をおこたりなく続けることは、難しいことです。

「のど元過ぎれば熱さを忘れる」の喩えがある通り、長年にわたって地震や津波に対して自発的に準備しつづけることは、不可能に近いかもしれません。

 ここには、教育にかかわる根本的な問題が横たわっています。すなわち、「教えること」だけではなく、「実行させること」や「自発的に続けさせること」のためには、情報の伝達とは次元の違うプログラムを、専門家の側で用意する必要があります。