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 なかでも姿が目立つのは、政権の機嫌ひとつで財産が消し飛ぶ懸念を深めたお金持ち、カネと不動産の視点から祖国の社会の不透明さや持続可能性の薄さに嫌気がさした金融関係者、言論の自由が狭まり仕事が難しくなったメディア関係者…、といった人々である。

 特にお金持ちの懸念は深刻だ。近年の中国は大手不動産コングロマリットの万達(ワンダ)や中国ITの旗手のアリババといった国家を代表するレベルの大企業ですら、いざ当局に目をつけられると大ダメージを負う時代であり、民間で稼いだ人たちは誰しも戦々恐々である。

 もちろん、一定以上の上流層の中国人は、ずっと前からとっくに資産を海外に移し続けてきた。ただ、昨今の「潤」と従来の資産フライトとの大きな違いは、本人たちが将来的にも中国に戻る考えを捨て、資産のほとんどを持ち出すようになっていることだ。

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2022年04月2日、大規模ロックダウンから2日前の上海。すでに人通りはほとんどなかった。©iStock.com

日本が中国富裕層の移住先に選ばれる理由は…

「潤」の行き先として、アジアでの一番人気はシンガポールだ。ただ、国土が狭く閉塞感があることや、資金面のハードルが高いなどのネックもある。そこで次善策として選ばれているのが日本である。

 日本は経済が低調なので投資やビジネスにあまり向かないが、小さな会社を経営できる程度のお金さえあれば在留資格「経営管理」を取得可能で、しかも物価が安くて治安がいい。生活に追われない水準の暮らしができるならば、日々のQOLも高く、休日に温泉やスキーやハイキングも楽しめる。

 また、子育て世帯の中国人からは、体育や図工・音楽など狭義の「勉強」以外の教育も重視する日本の公立小学校の環境が、意外と評判がよかったりする。医療水準の高さも魅力だ。

 首都圏や関西圏ならば「ガチ中華」店舗にも事欠かず、異国でも故郷の味にありつける。日本人と中国人は外見も似ているので、欧米圏とは違って、街を歩くだけで「外国人」として露骨な差別をぶつけられることもすくない。