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「民間企業の自由な経済活動に、政府から無駄なクチバシがやたらに入る。それにもかかわらず、例えば上海のロックダウン中には、物資を横流しするような怪しげな企業がいくつも生まれた。いずれも背景に党の高官がいると言う話だった。社会に公平性や透明性がなさすぎる」

「5年後か10年後かはわからないが、習近平は老いて権力を失えば『清算』されるはずだ。社会主義国家の強力な独裁者が、安定的に次代への権力移行をおこなえる例は、実子に継承させる以外ではほとんど見られない。やがて習が老いれば、国家の滅亡とまではいかなくとも、相当の混乱が起きることは確実だ。中国の先行きは危うい」

 私が会った「潤」の当事者たちの中国の将来に対する見方は、いずれも驚くほど悲観的だ。母国に見切りをつけた人たちなので当然でもあるが、彼らは常に体制を批判してメシを食っている民主活動家などではない。半年〜数年前まで中国社会の中枢にいた人たちの口から、こうしたセリフが次々に飛び出していることは、やはり驚く。

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2022年3月の上海。各国のコロナ対策は”塞翁が馬”のようなもので、短期的スパンでは優劣を決めがたいところもあるが、行きすぎたゼロコロナ政策への不満はやはり存在する。©iStock.com

よほどの人脈がないと知り合えない中国人エリートが都内で「けっこうヒマ」に

 日本の立場から見て、この「潤」組の中国人たちの価値は言うまでもない。華人系不動産業者の話では、数億円の豪邸やショッピングビルをポンと買い「1家族だけで100億円くらい資産を持ちこむ」ような富豪が、何家族も日本に移住しているようなのだ。近年なかなか聞かれない、景気のいい話である。

 いっぽう、「情報」という面でも興味深い。仮に中国国内で会うとすれば、よほどの人脈を持っていないと知り合うこともできず、たとえ会っても機微に触れる話題はほとんど喋ってくれない立場の人たちが、いまや日本国内で大勢ぶらぶらしているのだ。

 彼らは中国に帰るつもりがほとんどないため、中国国内のしがらみからは既に自由だ。しかも、移住した異国での日々は「けっこうヒマ」である。当然、話をすればいろんなことを教えてもらえる。

 習近平は庶民層の人心を得ており、中国の一般人の体制への信頼度はまだまだ高い。とはいえ、国家のなかでいちばん目端がききそうな層の人たちからは、まったく違う話が漏れ聞こえてくる。コロナ禍のなかで海外との門戸を閉じた中国社会の内部では、実に興味深い現象が進行中である。