第2の死亡事件──5カ月に再びクマが出現
第2の事件が起こったのは、数カ月後の10月6日。午前9時ごろ、主婦のB(59歳)がクルミ採りに行ったまま戻らないと、家族が新庄署に捜索願を提出。彼女が行ったのは自宅から400mほどの権現山の山裾で、いつも出かけている場所だという。地元の人などが午後9時ごろまで捜索したが、見つからなかった。
翌7日の午前6時20分ごろ、地元消防団員・新庄署員・猟友会員総勢57名が捜索を開始。4班に分かれて山に入ったところ、わずか1時間後の午前7時37分、クルミの木の下で亡くなっているBさんを発見。右腕と両足の肉を削ぎ落とされていた。そして、付近には、7~8mほどの遺体が引きずられた跡もあったという。
近くには、長さ25㎝ほどの獣の足跡があった。また、付近のクリの木にはタナ(木の実を食べるために梢に登ったクマが、枝を敷いて作る場所のこと)があり、別の木にはクマが皮を剥いだ跡など、クマの痕跡が多数残されていた。この現場はAの事件と、200mほどしか離れていなかった。
山形大学理学部の大津高教授は、『山形新聞』(1988年10月6日)で、「Bを襲ったのは、(Aと)同じクマだろう」とコメントを出している。
「ツキノワグマでも血や肉の味を覚えると人を襲うこともあり得るので、早く駆除するべきだ」と。この年は、山ブドウやクルミが不作で、クマが人里近くまで降りて来ていたという。
事件を知った村民は“人喰いグマが近くにいる!”と騒然となった。翌8日、早速現場付近で猟友会がクマ狩りを行うことになった。
第3の死亡事件――クリ拾い中に襲われる
3件目の事件は、Bの事件のわずか3日後の9日だった。
午前8時半ごろ、酒田市のC(61歳)は、家族5人で持ち山である戸沢村の古口にクリ拾いに出かけた。正午ごろのこと、家族はそれぞれ別々にクリ拾いをしていたが、夫のD(64歳)が、クマの足跡を発見。
家族に知らせようとして、血まみれになっているCを発見した。付近にクマがいたため、火を焚き、大声で叫ぶなどしてクマを追い払い、救助を求めたという。Cは、左太ももなどを噛まれていた。山形県立新庄病院に運ばれたが、午後3時半、失血により死亡が確認された。
一方この日、2件目の事件を受け、地元猟友会は現場の杉沢地区でクマ狩りを行っていたが、成果をあげられていなかったので、一旦帰宅していた。そこに、村役場から事件の知らせがあり、急遽13人が場に向かった。