観客は即退場、球団も謝罪する事態に
なお、このとき、フェンウェイ・パークでヤジを飛ばした観客は、すぐ警備員によって退場させられ、翌日、ボストン・レッドソックスとボストン市長が公式に謝罪するという事態になっている。
歴史的に、ずっと差別がつきまとってきたMLBだが(実際、MLBは1940年代まで、有色人種を締め出していた)、このフェンウェイ・パークでの件を境に、少なくとも人種差別的なヤジや中傷に関しては、少しずつ厳しい姿勢を取り始めている。
人種差別的なヤジに対して厳しい対応を取っているプロスポーツといえば、サッカーだろう。海外のプロリーグはもちろんのこと、日本でも、人種差別的なヤジに対して、厳しく対応している。
試合観戦中、サポーターが人種差別的なヤジを飛ばした場合、クラブが、そのヤジを飛ばした人物を特定し、数試合、場合によっては無期限の出入り禁止処分を科したり、あまりにも悪質なものについては、クラブ側も責任を問われ、リーグから無観客試合という処分がくだされるケースもある。
日米プロ野球の時代錯誤
しかし残念ながら、これだけ厳しい処分を下しても、まだまだ一定の頻度で人種差別的なヤジや中傷が飛んでいるのが現状だし、それは日本に限らず、海外でも同様だ。しかしサッカーは、少なくとも観客やチームに対する罰則が存在するという点で、野球とは大きく異なる。
前述のように、MLBも厳しい姿勢を取り始めてはいるものの、いまだに悪質なヤジや中傷を飛ばした人物を特定して出入り禁止にしたり、あるいはチームに対して厳しい処分を科すようなケースは、ほぼ無い(特定の観客に対して無期限の出入り禁止処分が科されているケースは存在するが、これは試合中に胸を露出した女性のケースや、試合中の選手に対してボールを投げつけたケースであり、人種差別的なヤジや中傷によるものではない)。
これは日本のプロ野球においても変わらない。むしろ、もっと野放しになっていると言ってもいいだろう。現在はコロナ禍の影響か、それほど目立ったヤジや中傷は飛び交うことはないのだが(それでも決して飛び交っていないわけではない)、仮にスタジアムで人種差別的なヤジが飛んだとしても、基本的には目立つものに対して警備員が注意をする程度で、大半はスルーされている。
冒頭に挙げたカープ、ならびにカープファンに向けられているヤジは、明らかに人権を侵害しているものであり、人種差別的なものと同様、決して許されるべきものではない。今はただ、MLBや日本のプロ野球が、一刻も早く人種差別や人権侵害に対して、厳しく対応してくれることを願ってやまない。