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「ヒグマに3つ穴開けたってよ、向かってくるんだもん」

 必要最小限のエネルギーで、獲物にできるだけ苦痛を与えず、一発で斃(たお)すためにどうすればいいか。そのために新井は射撃技術を磨くだけでなく、「銃と弾」にこだわる。そこで“北の鉄砲師”山崎の出番となるわけだ。

「オレが設計して、『山ちゃんよ、これちょっと頼むよ』ってお願いするんだ。アメリカから部品取り寄せてもらったり。設計っていっても、オレが絵を描いてそれを図面に起こしてもらうんだけど。そうやって世界に一つきりしかない、オレ専用の口径を作ってもらったこともあるよ」

 それは「秒速4000フィート(約1220メートル)に達する7ミリのライフル弾を作れないか」という新井からの“宿題”を山崎が引き受けたことから始まった。山崎はこう語る。

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「普通、7ミリの初速は2500とか3000(フィート)という世界ですが、これだと例えば300メートル先のものを撃つと、重力により弾頭は40~50センチほど下がる。もし初速を4000まで上げることができれば、重力の影響を受ける前に獲物に達するので、その落差を小さくできるわけです。かといって軽くしすぎると、今度は威力が落ちる。速度と重さという基本的にはトレードオフの関係にあるものを両立させるためには、燃焼効率をどうするか、ツイスト(ライフルの回転数)をどうするか、と無数にある要素を微調整して、ピンポイントを見つけるわけです」

 そうやって完成した7ミリのライフル弾には、新井と山崎それぞれの頭文字の1文字が入っている。トップスピードで秒速4000フィート(約1220メートル)出る弾は、そうはない。

「そうしたら赤石が『新井さん、それ撃ってみてよかったら、オレも作るから教えて』ってくるもんな。『今使ってる(銃弾)のは、ダメだ。(ヒグマに)3つ穴開けたってよ、全然向かってくるんだもん』ってボヤいてたよ」

「獲れた」「獲れない」だけじゃ意味がない

 天性の運動神経と反射神経、それに負けず嫌いで研究熱心な性格が新井をして名ハンターたらしめてきたことは想像に難くない。その新井は、自分を慕って集まる後輩ハンターたち全員に「クマを獲らせたら」猟を辞めるつもりだという。そのためには長年培ってきた技術も知識も経験も惜しみなく与える。

 いつしかインタビューは、「弾道重量に関する銃身ツイストとのマッチング」「断面比重(SD値)」「ケースプライマーポケット」「フラットベース」といった専門用語が次々と飛び出し、後輩ハンターたちへの「白熱教室」の様相を呈していた。その内容はあまりにマニアックなので割愛するが、新井が言いたかったことは次の一言に集約されている。

「そんくらい真剣にやんなかったら、『獲れた』『獲れない』だけじゃ意味がないんだよ。オレは自分の持っているもん、全部(猟に)ぶつけてこうなってきたんだから」

 それは、半世紀以上にわたって「赤城おろし」に吹かれながら、生命のやりとりをしてきた男の哲学というべきものだろう。

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