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えびの香り広がる「かき揚そば」を新橋で…老舗の立ち食いそば店が直面する「創業50年問題」とは?

えびの香り広がる「かき揚そば」を新橋で…老舗の立ち食いそば店が直面する「創業50年問題」とは?

2023/01/31
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「今は2代目がつゆの仕込み、天ぷら作りなどをひとりでこなしています。自分が午後の接客や裏方をすべてやっています。ひとり欠けても存続はむずかしい。それと、立ち食いそば屋の創業当時から身内だけで営業してきたので、人を雇って営業を続けるのは今となっては無理です」

個人経営の飲食店が抱える「創業50年問題」

 戦後の経済成長の真っただ中、1975(昭和50)年頃に開業した個人経営の飲食店は、今年で48年目位になる。ちょうど代替わりの時期を迎えている。経営者の多くは東京に仕事を見つけに来てそのまま商売をした人が多い。核家族ゆえ横のつながりは少なく、キツイ商売を子供に継がせたくないという店主も多い。

 そんな背景から、後継者が見つからないで廃業するケースが後を絶たない。街のパン屋、洋食屋、街中華店、街の製麺所、街そば屋、豆腐屋などがすべてこの時期を迎えている。「創業50年問題」とでもいえばいいのだろう。「うさぎや」もその典型例といえる。そしてコロナ禍がそれを一層助長しているわけだ。何かいい解決方法はないかと思案してみても、なかなかいいアイデアは浮かばない。

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「もちろん、まだ閉店すると決まったわけではありませんよ。まだまだ続けて行きますからご安心ください」と明るく切り返す大介さん。

メニューに隠された「遊び心」

 すると大介さんが壁にあるメニューを指差して次のようなことを話しだした。

「私は似顔絵を描いたり、線画を描くのが趣味なんです。このメニュー少しだけ絵心があるんですよ。気が付きましたか?」

 壁に並ぶメニュー札をじっくりみてもよくわからない。「えびかき揚」「いかかき揚」がヒントだというのでよく見ると、ようやく判明した。「か」の字の点がえびといかになっていた。大介さんが店に立つようになった2012年、たまたま壁に貼られていたメニューを見ていて絵心がうずいたそうだ。これは常連でもなかなか気が付かないだろうと2人で大笑いしてしまった。

「か」の字に注目すると…

 街の大衆そば屋と客との関係は希薄で細々としているが、止まり木としての絆の記憶は深く刻まれているのだと思った。しんみりとした訪問になってしまったが、今年の干支はうさぎだから、「うさぎや」にはもう一花咲かせてもらいたい。大介さんにそうお願いして店を後にした。もう少し通う頻度をあげなければならないと反省しつつ、次はいつもの「冷し春菊天そば」を食べようと思った次第である。

うさぎの置物も飾られている

INFORMATION

「うさぎや」
住所:東京都港区新橋5-9-1
営業時間:月~金 7:00~9:00 10:30~15:00
​定休日:土日祝

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