番組の中で近藤氏は「個人的には本は30冊に抑えている」と話しているものの、「本は30冊になるまで捨てろ」とは言っていない。それなのに「30冊になるまで本を捨てろとは、文学に対する冒涜だ」という記事が書かれたり、「この女はモンスターだ」とツイートで書かれたりもした。
アジア系移民である作家のエレン・オー氏は、近藤氏に対する白人の反応について、
<近藤に対する反発は、彼女のつたない英語から、使う用語を揶揄することまで、多岐にわたる。“ときめき"というコンセプトを揶揄するミーム(編注:ネット上などで拡散されて消費される特定の表現のこと)をたくさん目にしたし、私の(移民の)両親が使うようなカタコトの英語を、意図的に誤解して揶揄する人たちを連想してしまう。>
(出典:The Marie Kondo Debate Has Classist & Racist Undertones That Can't Be IgnoredBustle/「Bustle」2019年1月16日/筆者:ケリー・ジレンマ)
とコメントしている。
白人男性がミニマリズムや断捨離などについての本を出版したり、インフルエンサーとして活動しても何ら批判を浴びることはなく、むしろ尊敬される対象であるのに対して、近藤氏は異様なほどに「完璧な責任」を求められている。
トランプ大統領のアジア人差別発言や、2021年に連続的に起こったヘイトクライムとStop Asian Hateムーブメント、そしてしつこくなくならないハリウッド映画でのアジア人に対する差別的な描写など、近年でもその状況は変わっていない。
アジア系は「我々の仕事を奪う優秀で迷惑な移民」「全く意味のわからない、気味の悪い価値観を押し付けてくる人種」であり、アジア人女性は「白人男性を白人女性から奪う、華奢で性的な“アバズレ”」と見なされ、いまだに「異物」としてネガティブに扱われ続けている。
白人女性にとってアジア人女性は“脅威”に映る
白人は、アジア人女性に指図されることを根本的に嫌う。研究者のムーチン・チャン氏は以下のように述べている。
<(近藤への非難は)アジア人女性に投影されるステレオタイプの二面性を例証している。フェチとして消費されるエキゾチックな存在か、「黄禍の脅威」(注:イエロー・ペリル、白人社会を脅かす存在としてアジア人を見ること)のいずれかだ。近藤は自身の番組でも著書でも、「哲学の核心は、個人の価値観に基づく優しいアプローチである」と繰り返し強調してきた。
しかし彼女は、(中略)白人たちに世界経済に対する不安と、破壊的な資本主義的消費をめぐるストレスを思い起こさせてしまったのだ。白人は、東アジアの女性が自分たちに”命令してくる”大胆さを持ち合わせているということに、突然激怒したのだ。>
(出典:The Not-So-Subtle Racism Behind the Marie Kondo Criticism/「PAPER」2019年1月19日)
ニュースサイト「デイリー・ビースト」によると、作家であり活動家でもあるバーバラ・エーレンライクは<断捨離の第一人者、近藤麻理恵が英語を話せるようになったら、アメリカが衰退していないことを確信する>(意:英語を話せない近藤が活躍しているのは、アメリカが衰退していることの象徴だ)とツイートしたという。
批判を受けて削除した後も、新しいツイートで<美学的に言えば、私は散らかる側にいるので、近藤は嫌いだ>と認め、再び近藤氏の言語能力が重要な問題であることをさらに強調した。
「デイリー・ビースト」の記事は以下のように続く。
<誰も近藤の話を聞いていないように感じる。(中略)「白人女性作家たちは彼女(近藤)に対する嫌悪感を示すことで利益を得る方法を見つけたのだ。
近藤の意図は「彼女がいかに間違っているか」を繰り返し論じる「思考実験」的な記事たちの中で埋没していくばかりだ。彼女はモノが人々の精神的な負担にならないように、断捨離をする手助けをしたいだけなのに。>(出典:The Racist Backlash Against Marie Kondo of Netflix’s ‘Tidying Up’/「DAYLY BEAST」2019年2月8日/筆者:グレッチェン・スモール)
上記で指摘されるようにまた、近藤氏が過度に「かわいくて華奢」であることを強調され子供扱いされるのも一種の差別である。こういった扱いの原因は、アメリカのメディアにおけるアジア人女性の性的な描写、そして有害なステレオタイプ表現だ。
作家のエレーヌ・シェー・チョウは雑誌「ヴァニティ・フェア」のWEBサイトで以下のように述べている。
<白人女性によって脚本、監督、制作された人気の映画やテレビ番組では、アジア人女性は常に売春婦のような存在として描かれる>
<エイミー・シューマーは、彼女のスタンドアップ・スペシャル『Mostly Sex Stuff』(2012年)の中で、こう主張している。「アジア人女性たちは"最も小さな膣"を持っている(※)。どんな男も、(白人女性である)あなたを捨ててアジア人女性を選ぶでしょう」。
我々アジア女性は、身体、セクシュアリティ、行動に関して何世紀も前から広められた嘘(編注:アメリカのメディアにおけるアジア人女性の描写のこと)のせいでストーカー被害に遭い、暴行され、レイプされ、殺害されている。主流派フェミニズムの、いわゆる”すべての女性の権利”のための闘いにおいて、なぜ私たちの苦しみは見落とされ、見えなくされてしまうのでしょうか。>
(出典:“You Know What I Say About Men Who F--- Asian Women?”/「VANITY FAIR」2022年6月16日)
多くの白人女性にとってアジア人女性とは「感情が読めず、男性にとって性的に魅力的な存在で、白人女性にとっては脅威に映る」存在なのである。