1ページ目から読む
3/4ページ目

政治に期待しない層の消去法で維新候補が選ばれる

 これは、野党政治において党派性やイデオロギーによって信頼する議員を選択する行動よりも、むしろ生活者視点の有権者ほど立憲や共産を見放して維新に票を投じる傾向が強くなり、結果的に右とか左とか関係なく左派系政治活動が有権者に刺さらなくなっていることの証左とも言えましょう。

 例えば、京都市議選の各党獲得議席で見ると一目瞭然な通り、自民党が20議席から19議席とほぼ横ばいなのに対し、京都府では伝統的に得票力で強いとされてきた共産党が18議席から14議席に減らしたうえ、全体得票でもおおむね2割強の減少が見て取れます。他方、それを埋めたのは紛れもなく維新の新人6名で、議席は4議席から10議席に増やし、完全に共産党からの票の移動で議席を確保したことが分かります。

 詳細については今後の分析が待たれるところですが、共産党の固有の支持者が消えたというよりは、政治にあまり期待しない層が投票日当日に消去法で維新候補を選んで投票している構造が浮き彫りになっているのです。

ADVERTISEMENT

 野党支持が党派性やイデオロギーによるナラティブ(物語感)を喪失し、退潮しつつあることは、単純に立憲民主党、日本共産党、国民民主党、社民党などを支える支持者が高齢化したからという理由だけでは説明がつかなくなっています。これは、自民党も一部支持者の高齢化が進んでいるけれど、若い人からの得票も一定の期待感や信頼を得て維持している面があるからです。

野党のダブルスタンダード的なところが有権者に見透かされている

 千葉5区補選では、ルーツに新疆ウイグル自治区を持つ英利アルフィヤさんを自民党が擁立して、激戦の末、立憲民主党の矢崎堅太郎さんとの戦いを制しました。国民民主党から岡野純子さん、日本共産党から斉藤和子さんが擁立され、さらに維新からも岸野智康さんが立っておりましたので、野党が票割れを起こして自民党にやや有利な選挙戦になったことも勝因のひとつとは見られます。

衆院千葉5区補欠選挙で演説を行う岸田文雄首相 ©時事通信社

 この英利アルフィヤさんについて言えば、本来であれば、中国共産党政府による苛烈な弾圧を受けているウイグル人の人権・人道的立場から、むしろ野党勢力から擁立されてもおかしくない候補者であるはずです。投票結果から見ても、伝統的に野党支持をしてきた層から一部英利アルフィヤさんに票が流れています。

 裏を返すと、人権問題やジェンダー差別など左派的な普遍的価値を普段は強く主張する野党勢力なのに、それは概ね自民党政治や反米、反グローバリズムの文脈では機能する一方、中国政府から弾圧されているウイグル人が対象となると、これらの党派性に基づく主張が一気にトーンダウンしてしまうダブルスタンダード的なところが有権者に見透かされている面もあるのかもしれません。

 同じ意味で、表現規制への抵抗を旗頭にオタク層ほかクリエイティブな有権者から熱い支持を受けている参院議員・山田太郎さん、赤松健さんといった候補者は、国民の自由な発信を保障し表現の自由を守るという意味では、本来は日本共産党ほか左派政党が取り組むべきテーマであり、また、候補者でした。

 しかし、むしろネットでも共産党は表現規制の容認に舵を切ったのかと話題になるほどに評判が低迷した背景には、LGBTやジェンダーなどコアなテーマで女性蔑視や暴力表現にもとれるコンテンツは規制されるべきという考え方が左派政党には根強くあることで「何を守るべきか」に齟齬をきたし、みすみすクリエイティブな有権者をごっそり失ってしまう党派性への拘泥があったようにも感じます。