男性の意見を内面化した社会
桐野 「悪妻」って言い合うことで、男同士の連帯を強めているところもありそうです。ホモソーシャルですね。
西 でも私自身、男性向けにデザインされた社会で男性の意見を内面化しているところもあります。「野村監督の妻のサッチーどうなん」って言っちゃうみたいな……。
桐野 見かけの派手さも相まって言われてしまうのでしょう。
西 ただ冷静に考えると「それ言って誰が喜ぶんやろう?」と思います。サッチーと実際に会っていたら、魅力的で面白い方ではなかったかと想像するんです。
桐野 以前、家族で食事していたら、隣の席に若いご夫婦と夫の男友だち2人の4人グループがいたんです。その男友だちがご夫婦に「子どもを持つなら男と女どっちがいい?」と質問したら、妻が「女の子は女々しくて嫌。はっきりしている男の子がいい」と答えていました。それを聞いて、「あなた、男たちに媚びなくていいよ」と言いたくなりました(笑)。
西 男性社会で生きていこうとすると、彼らの意見を内面化した方が生きやすいですもんね。
桐野 彼女の発言に、男友だちの方がちょっと引いていました。世の中、少し変わってきてるんだなとも思いましたね。
思うまま幸せに過ごす「もっと悪い妻」
西 私も恥ずかしながら、恋人の友だちから「お前、ええ子と付き合ったな」って言われたい気持ち、めっちゃありました。今考えたらもちろん「どこ向いてんねん、関係あれへんやん」って思うけれど。パートナーの友だちに愛されないといけないっていう考え方も独特で、千夏はそれができないんですよね。
桐野 夫の男友だちが家にわーっと来た時、嫌な顔をしないで、ご飯を作って振舞ってあげるのが「いい妻」なんですよね。メディアもそう喧伝しているから、女の人たちが「いい妻」像を内面化してしまう。
西 この作品のすごいところは、一編目の千夏より不満を溜めた悪い妻が最後に出てくると思いきや、ただ思うまま幸せに過ごすだけの麻耶がラストの主人公になる。その題名が「もっと悪い妻」という!
桐野 そうですね。タイトルの「もっと悪い妻」は、逆説的な意味を込めました。