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キャプテン立候補は山田自身による「人間宣言」だった

 ところが、この年のシーズンオフに信じられないことが起こった。山田の残留が決まったのだ。僕にとっては、まったく予想外の出来事だった。しかも、「自分の居場所はこのチームだと感じた」なんて、泣かせる言葉も聞かせてくれたのだ。「自分の居場所」――、それはなんて気持ちのいい言葉なのだろう。

 さらに驚いたのが、このときに翌21年からのキャプテン就任が決まったことである。しかも自ら立候補したのだ。もっともキャプテンから縁遠い選手だと、僕は勝手に決めつけていたのだが、山田は山田なりに「自分の居場所」をさらに改善すべく、自ら立ち上がったのである。このとき初めて、山田に対する関心が強くなったことを、僕は実感した。

 それまでは何をやっても完璧にこなす山田は、手のかからない子どものような存在だった。同時にまぶしくて、まぶしくて近寄りがたく、遠くから仰ぎ見る存在だった。しかし、このとき初めて、「手の届かないスーパースター」である一方で、不調に苦しむこともあれば、自分のチームを愛する「一人の人間」であることを、ようやく僕は理解した。山田のキャプテン就任宣言は、僕にとっては山田の「人間宣言」でもあったのだ。

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現状の山田哲人をどんな思いで見つめればいいのだろう?

 このとき山田は7年という超大型契約を結んだ。これは「生涯スワローズ」と、ほぼ同義である。ヤクルトに骨をうずめる覚悟を決めた山田に対しては感謝しかない。と同時に「これまでよりも、さらに山田を応援したい」という思いがとても強くなった。

 20年ぶりの日本一に輝いた21年は故障に苦しみながらも、リーグ4位となる34本塁打、同3位の101打点、同4位のOPS.885を記録して健在ぶりをアピールした。オリックス・バファローズとの日本シリーズ第5戦でタイラー・ヒギンスから放った同点スリーランホームランは最高だった。「なんだか打ちそうな気がする」ではなく、「絶対打つだろう」という確信の中で放ったあの一発は本当に見事だった。翌年、22年の日本シリーズでは宮城大弥からも見事な一発を放った。現時点で、山田が放った日本シリーズ5本塁打をすべて目撃しているのは、僕のささやかな自慢でもある。

 その山田が苦しんでいる。昨年も不調にあえぎ、全選手を前に「助けてください」と涙したという報道もあったが、今年はさらに輪をかけてどん底に沈んでいる。ボールゾーンのスイング率が悪化し、選球眼に陰りが見え始めたり、コンタクト率や速球への対応力が低下したりしているというデータも散見され、最近ではスタメン落ちする機会も増えた。

2年連続で不振に苦しむ姿なんて見たことなかった

 これまで、2年連続で不振に苦しむ山田の姿を見たことがなかったから、多くのファンもとまどっているのではないだろうか? 少なくとも僕は大いに困惑している。今まで見たことのない山田が目の前にいる。その姿をどんな気持ちで見つめればいいのだろう? どんな声援を送ればいいのだろう?

 「山田は山田だ」と信頼しつつ、それでも三球三振でトボトボとベンチに引き下がる姿を目の当たりにして、「こんな山田は見たくない」と思う現実もある。山田のことを考えるたびに、胸が締めつけられるような思いになる。そして、僕は今さらながら「山田哲人が大好きなんだ」と気づいたのである。

 山田が苦しむ姿は見たくない。正直言えば、現状では「3番・山田」はほぼ機能していないと思う。休ませた方がいいのか、それでもあえて起用し続けた方がいいのかは僕にはわからないけれど、髙津臣吾監督は後者の考えなのだろう。残りあとわずかとなった今シーズン。少しでも来シーズンに繋がるきっかけや突破口を見つけてほしいと切に願う。

背番号《1》を背負った山田にはその責がある

 背番号《1》を背負った山田にはその責任がある。そして、僕らはその姿に心からの熱いエールを送る責任がある。山田、山田、山田! 今はただ頭をかきむしり、胸をえぐられるような激烈な思いで、彼の姿を見つめるだけだ。頑張れ、山田、頼むぞ、山田!

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