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在宅死のカリスマがあえて問う「今までマスコミは美談ばかり伝えてきた」

在宅死のリアル──長尾和宏医師インタビュー ♯1

2018/03/13

大橋巨泉さんを苦しませた在宅医の専門はニキビ治療だった

鳥集 在宅医なら、そうした医療用麻薬の使い方ができるんでしょうか?

長尾 それが、そうでもないんです。週刊誌報道などによると、2016年に亡くなられた大橋巨泉さんのご家族も、「在宅医療に失敗した」と後悔なさっています。その在宅医は医療用麻薬を飲み薬も貼り薬も大量に持ってきて、家に置いて帰ったそうです。しかし、飲み薬と張り薬をいっぺんに使うのは絶対あり得ません。1か月分持ってきたというのもあり得ない。通常は1週間分を用意して、看護師さんが副作用が出ないかチェックしながら、細かくちょっとずつ増やしていく。しかし、巨泉さんは医療用麻薬を大量に投与された結果、呼吸不全で緊急入院することになり、3ヵ月集中治療室で治療を受けたあげく、そこで亡くなってしまった。お元気なときに「自宅で安楽死したい」と語っていたにもかかわらずです。

鳥集 巨泉さんの在宅医は皮膚科や美容外科が専門で、ニキビ治療で有名だったそうですね。本当にひどい話ですね……。がんを治療している大きな病院ではどうでしょうか?

長尾 昨日も大学病院、有名病院、がんセンターから、3人の末期がんの患者さんが受診されました。みんなとても痛そうでしたが、驚くことにモルヒネが入ってないんです。「病院は何してるの?」と言いたい。一番必要なものが入ってなくて、その代わりに糖尿病の薬、血圧の薬、おしっこを出しやすくする薬、そんなのが10種類近くも入っている。おしっこを出やすくする薬なんて、すでに必要とする段階ではないんです。大きな病院の医師はみんな、「緩和ケアなんて」くらいにしか思ってないし、医療用麻薬の使い方に習熟した医師も非常に少ない。看護師さんのほうが使い方に習熟して、詳しい方がいるほどです。

長尾和宏さん ©末永裕樹/文藝春秋

仲の悪い抗がん剤の専門医と緩和ケアの専門医

鳥集 国から「がん診療連携拠点病院」などに指定されている大学病院やがんセンターには緩和ケア医や精神科医などからなる「緩和ケアチーム」があって、各診療科と連携しなければいけないはずですが……。

長尾 ええ、抗がん剤の専門医と緩和ケアの専門医がチームを組むべきなんだけど、仲悪いところがいっぱいあるんです。たとえば、抗がん剤をやっているある患者さんが、主治医に「緩和ケアを受診したい」と言ったら「駄目だ」と言われたというんです。「そんなこと言うんだったら俺はがんを治さないから」と。

鳥集 え?  それはひどい……。

長尾 もちろん、仲がよくてチームがうまく機能しているところもありますよ。でも、仲が悪いところもある。大学病院で第一内科と第二内科で敵対していることがよくありますが、あれと一緒でね、本当の意味での「緩和ケアチーム」というのはできていません。「がんと診断された時からの緩和ケア」ってうたわれていますけど、現実には、そういうふうになってないんです。とくに大きな病院ほどなってない。1人の医師が両方やればいいんだけど、専門が細分化しているので、なかなか連携できないんです。身体的な痛みだけでなく、心の痛みやスピリチュアルペイン(生きる意味を問うような魂の痛み)のケアなんて、ほぼゼロに近いでしょう。

鳥集 これまでメディアもかなり、在宅医療や緩和ケアの重要性を訴えてきたと思うんですが、現実はまだまだ遅れているんですね。

長尾 やはり、いい面ばかり見て、持ち上げすぎたんです。

♯2 「誰も書かなかった「死の壁」をどう乗り越えるか」
♯3 「『愛してる』と言って亡くなった小林麻央さんの最期を作り話だという人へ」に続く

長尾和宏(ながお・かずひろ)

医学博士。医療法人社団裕和会理事長。長尾クリニック院長。一般社団法人 日本尊厳死協会副理事長・関西支部長。関西国際大学客員教授。2012年、『「平穏死」10の条件』がベストセラーに。近著に『痛くない死に方『男の孤独死』『薬のやめどき』『抗がん剤 10の「やめどき」』(以上、ブックマン社)『病気の9割は歩くだけで治る』(山と渓谷社)『犯人は私だった!』(日本医事新報社)など。

痛い在宅医

長尾 和宏(著)

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