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速度計は約20キロ…キイキイと軋む音を立てながら登っていく

 東城を出たディーゼルカーはすぐに上り坂にさしかかる。キイキイと車輪と線路が軋む音を立てながら、谷間の地形に沿って深い木立の中をゆっくりと上っていく。

 運転席の速度計は時速20キロ程度を示している。線路に沿って流れる成羽川(東城川)は車窓の左へ右へと移り変わる。勾配の頂上まで登り切って平坦になると、時速40キロくらいまでスピードアップして軽やかに走る。

車窓に映る成羽川(東城川)(備後八幡~内名)

 次の備後八幡と内名(うちな)の区間では、今年3月下旬、線路上の落石に列車が接触して脱線事故が発生した。その影響で東城~備後落合間は今春以降、ずっと運休が続いていた。

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 近年、JRの赤字ローカル線が災害等によって長期運休すると、多額の費用をかけて復旧するのではなく、地元自治体等と協議を重ねたうえで数年後にそのまま廃止してしまうケースが発生している。

 このため、この日本一の閑散区間もそうなってしまうのではないか、とひそかに思っていたのだが、7月29日、JR西日本はこの区間の落石防止工事等を完了させて、およそ4ヵ月ぶりに通常運行を再開した。赤字確実な閑散路線であっても、営業線区である以上きちんと復活させたのは、公共交通機関を担う鉄道会社としての姿勢の表れであろう。

内名駅に接近

人家が見当たらない渓谷の奥深くへ

 だが一方で、JR西日本は復旧直後の今年8月、この10月に施行される改正地域公共交通活性化再生法の新制度に基づき、当該区間を含む芸備線の将来を地元自治体等と話し合う「再構築協議会」の設置を国に要請する意向も表明している。存廃は依然として不透明だ。

 停車する各駅に、「やっぱり、芸備線がええよのぉ!」とのフレーズを掲げた利用促進の横断幕やのぼりが見られる。だが、内名で地元のおばさんが1人下車した以外は、備後八幡でも小奴可(おぬか)でも利用客の姿はなかった。木々に囲まれた深い山奥の線路上からは、駅周辺以外に人家をほとんど見つけることができなくなる。

「やっぱり、芸備線がええよのぉ!」ののぼりがはためく(小奴可)
列車からよく見える横断幕(道後山)

 とはいえ、坂道のせいでゆっくり走るディーゼルカーのおかげで、成羽川の流れが木々の合間から眼下に見下ろせて、ときには車窓間近に迫り、なかなか迫力がある。どうせ速く走れないのなら、オープンスタイルのトロッコ列車でも走らせたら好評を博すのではないか、などと無邪気に空想してみたりする。