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いざ「1日平均利用客数0人の駅」へ…中国山地を走る「芸備線」日本一の閑散線区に行ってみた

2023/09/16

genre : ライフ, 歴史, , 社会

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今は広島行きの直通列車も急行列車もないし、駅員もいない

 定刻の14時28分より10分ほど遅れて到着したため、反対ホームに待機していた三次行きの出発時刻はすでに過ぎていたが、木次線の到着も遅れているとのことで、狭い駅構内は3列車の乗換え客で賑わっている。跨線橋がないので、駅舎がある木次線用の1番線と芸備線の2・3番線のホームは、今では珍しくなった線路上の構内踏切を歩いて往来する。

左・三次行き、右・新見行き(備後落合)
上記とほぼ同じ位置から撮影(平成3年)。停車しているのは急行「ちどり」

 いずれも1両編成のディーゼルカーとはいえ、3方向から一度に列車が到着し、全ての乗客がホームに降り立ち、ホーム上や構内踏切を歩きながら次の列車を確認していっせいに乗り換える様子は壮観である。

 だが、3列車がそれぞれに出発していくと、駅は一気に静寂を取り戻す。交通の要衝ではあっても、この駅自体や駅周辺に用がある旅客はほとんどいないということだろう。

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 この日中の3方向同時発着のシーンは、32年前に来たときとよく似ている。当時、木次線と芸備線の直通運転はすでになくなっていたが、木次線の列車と接続して広島へ直通する急行「ちどり」は健在だった。「ちどり」の発着時間帯は3方面への列車が同時に停車していて、常駐している駅員がその発着を見守っていた。

左は木次線・宍道行き、右奥には芸備線・三次行き(備後落合)
上記とほぼ同じ位置から撮影した備後落合駅3列車同時接続シーン(平成7年)。中央は急行「ちどり」

 今は広島行きの直通列車も急行列車もないし、駅員もいない。松本清張が泊まったという駅前旅館や商店も、すでに営業していない。

JR西日本の輸送実績ワースト上位線区が一堂に

 周辺住民が少ない備後落合から3方向に分かれる各路線は、令和3年度の平均通過人員が1日13人の東城方面を筆頭に、備後庄原までの芸備線23.9キロは66人、出雲横田までの木次線29.6キロは35人と、いずれもJR西日本の旅客輸送実績ワースト5にランクインしている。

鉄道ファン向けギャラリーのような待合室(備後落合)

 利用者が極端に少ない3線区が一堂に会する備後落合駅の待合室は、往年の鉄道写真などが壁いっぱいに貼られていて、鉄道ファン向けのミニギャラリーと化している。3列車の乗換えシーンを見ても、地元客より鉄道ファンの方が明らかに多い。

 こうなると、もはや路線自体、駅自体が一種の観光資源である。そして、公共交通の存廃を路線ごとの採算性のみで判断する前提の下では、その観光資源を持続的に活かす方策が再構築協議会で見出されない限り、地元住民の利用に頼る現状のまま存続させるのは、なかなか難しいように思われる。

備後落合駅舎
平成3年に撮影した備後落合駅舎。当時の外壁は板張りだった

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。次のページでぜひご覧ください。

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