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いざ「1日平均利用客数0人の駅」へ…中国山地を走る「芸備線」日本一の閑散線区に行ってみた

2023/09/16

genre : ライフ, 歴史, , 社会

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 東城駅舎も同時期の建築だが、野馳駅はほぼ改装されないまま古色蒼然とした開業当初の姿を保っている。駅舎の入口には「国鉄旅行連絡所」の看板が、「国鉄」の2文字を今も薄く残して掲げられている。

「国鉄旅行連絡所」の「国鉄」の文字が消えずに残っている

 古びていても荒れ果てていないのは、単なる保存建築物ではなく、地元のタクシー会社が駅舎を事務所として利用しているからだろう。出札窓口では乗車券の販売も行われる。地域の老人クラブも駅のボランティア清掃に携わっているという。

駅舎内の待合室と出札窓口(野馳)

 プラットホームは長く、向かい側には使用されなくなった旧ホームの跡が草叢に埋もれている。かつては長大な編成の列車がこの駅で行き違うこともあったのだろう。木製の庇の下に置かれたベンチに座って1人で列車を待っていると、昭和の鉄道旅行を体験している気分になる。

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野馳駅構内。右端に見えるのは使用されなくなった反対ホーム跡

「この列車は貴重な1本なのだが…」

 新見を朝5時過ぎに出る備後落合行きは野馳を通過してしまい、朝の東城行きは平日のみの運行なので、休日に野馳から出る備後落合行きは13時31分発が1番列車となる。8月中は夏休み期間中だからであろう、長い野馳駅ホームに停車した1両編成のディーゼルカーに乗る21人の旅客は、多くは鉄道ファンのようだった。

備後落合行き列車が到着(野馳)
昭和5年建築の駅舎前に平成8年製造のディーゼルカー

 盆地に広がる町の中心部に位置する東城に到着。区間列車の折返し駅で、旧東城町の中心部に位置しているのだが、利用客は少ないらしい。駅舎の向かい側ホームへ通じる跨線橋は、階段の老朽化を理由に板で塞がれている。

跨線橋の入口が封鎖されていて反対ホームへは行けない(東城)

 ここから先へ向かう列車は1日3本だけで、この列車はそのうちの貴重な1本なのだが、2人が下車しただけで新たな乗客はいなかった。