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 マレーグマといえば最近、中国の動物園で「マレーグマの着ぐるみの中に人が入っているんじゃないか?」というびっくりのクレームが来場客から寄せられたというニュースがあった。「そんな馬鹿な...」と思って写真を見てみると、確かに絶妙に不自然というか、本当に人間がクマの着ぐるみを着て立っているように見えてしまった。だが紛うことなき、本物のクマである。

立っているマレーグマの後ろ姿 ©AFLO

 こうしたマレーグマの驚くような「人間臭さ」が、制作陣の興味をひいたのだろう。たとえば後半、コカインの作用でふらっふらになってしまったクマに人間たちが翻弄される、恐怖と笑いがせめぎあうシークエンスなどに、マレーグマの研究成果が発揮されていると言えそうだ。

 なお撮影現場でもアニメーション制作現場でも、モーション・キャプチャーのパフォーマーとして様々な映画で動物やクリーチャーを演じてきたアラン・ヘンリーが、コカイン・ベアを「熱演」した。リアリティと迫力と人間臭さを兼ね備えた、実は映画の中にしかいないハイブリッドなクマ「コカイン・ベア」が創造されたというわけだ。

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人々はクマを怖がるが…人間の責任は?

    そんな本作はポップコーン片手に気軽に楽しめる映画とはいえ、より踏み込んだ深刻なテーマを読み取ることもできる。それは、人間が自分勝手に自然の中に捨てたり放置したりするものが、いかに動物や、人間自身に災難をもたらすか...ということだ。

   最近もアメリカのコロラド州で、人間の居住地に近づきすぎたアメリカクロクマが安楽死させられた。そのクマの体内を調べたところ、ペーパータオルやティッシュといった、クマが消化できないゴミが大量に見つかったという。

アメリカクロクマ ©AFLO

 本来はエサを食べて、脂肪をたくわえていたはずのクマが、人間が捨てたゴミによって栄養吸収を妨げられ、何ヶ月も飢えて苦しんだ果てに、結局は人間の手で(安楽死とはいえ)殺されることとなった……。『コカイン・ベア』以上に理不尽でやりきれない話である。

 クマが生息する日本も全く他人事ではない。ルールとして禁止されていることが多いにもかかわらず、クマに餌付けしたり接近しすぎたり、人にもクマにも危険な行為を行う不届き者がいまだに後を絶たないようだ。