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「初めはこっそり撮ることも考えましたが、すぐにそれはできないと諦めました。何とか祈りを捧げるところを撮らせていただけないかとお願いして、通常は許可されていない教会内での撮影が実現したのです」

 この写真が撮影された後、加藤は中原との名人戦七番勝負に挑み、持将棋、千日手局合わせ「十番勝負」となった死闘を勝ち切り、初の名人位に輝いた。

相手側から局面を見る加藤九段の得意技「ひふみんアイ」 ©弦巻勝

「米長さんとは別の意味でユニークな先生です。天真爛漫でいて、勝負の場では闘志を前面に押し出す。どう撮っても絵になる人でした」

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「アマチュアは勝ちを語る。プロは負けを語るものです」

 後年、将棋界に一時代を築いた中原誠は、酒席で自らの現役時代を楽しそうに振り返り、弦巻氏にこう語ったという。

中原誠氏(左)と米長邦雄氏 ©弦巻勝

「弦巻さん、アマチュアは勝ちを語る。プロは負けを語るものです」

「なるほど、そこが違いですか」

「……まれに勝ちしか語らない人もいますけどね」

 そこで一同が爆笑した。弦巻氏が語る。

「中原先生にとって、米長さん、加藤さんは終生のライバルと認めた棋士だったと思います。実績では名人15期の中原さんが、1期の米長さん、加藤さんを圧倒してはいますが、“棋界の太陽”と呼ばれた中原さんの周囲を、存在感のある惑星が周回することで、昭和の将棋界は大いに盛り上がった。藤井さんはもちろん強いのですが、対抗する棋士たちの個性が輝いてこそ将棋は面白くなると思いますね」