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 そして、パトロールも大事な仕事だ。クマ出没の通報が入れば、ハンドラーと現場に駆けつけ匂いをたどって探索する。発信器のついていないクマが付近に潜んでいる場合は、匂いや音からクマの存在を察知し、ハンドラーに知らせる。マラソン大会などの野外イベントの事前パトロールも行う。ベアドッグはハンドラーの用心棒をしながら日夜活動をしているのだ。

 ベアドッグとハンドラーは、クマへの“教育”に加え、人への教育普及活動にも力を入れてきた。町内すべての小学校をベアドッグとともにまわり、野生動物との共存をテーマに子どもたちへ特別授業を行なっている。

 2011年以降、軽井沢では、人間の活動エリアにおけるクマによる人身事故は1件も起こっていない。軽井沢町は少ない駆除頭数で、人身被害をゼロに抑え続けている。

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クマに立ち向かい、人には癒しや安心を与える

左から、タマ、タマの子のレラとエルフ 画像提供/NPO法人ピッキオ

 

 クマに勇敢に立ち向かうベアドッグだが、穏やかでやさしい性格を持ち、ときに人に「癒し」をもたらすのも仕事のひとつだ。

「クマが出たという通報があったとき、ハンドラーはベアドッグとすぐに現場にかけつけ対応します。一般の方がクマを目撃したり突然遭遇したりすると、強い衝撃でしばらく動揺が続くものです。そんなときでも、追い払い後に足元でおとなしく伏せて待つベアドッグに気づくと、みなさん安心した表情になるんです。

『よろしければ撫でてください』『一緒に褒めていただけますか』とお伝えすると、かがんでベアドッグに触れてくださいます。そして、『よくがんばったね。怖かったけどありがとう』『こんなに働いてくれてえらいね。私もちゃんと対策をするね』と、撫でながら話してくださるんです。ベアドッグに触れることで、クマに遭遇した恐怖心が少しずつ落ち着き、癒されていきます」

ベアドッグへのコマンドは英語。「Jump」のコマンドで跳ぶ。画像提供/NPO法人ピッキオ

 ベアドッグの存在は町の暮らしにも根付いてきた。ベアドッグがパトロールをすると住民は安心し、クマ対策への意識が高まるきっかけにもなっている。

「クマを探して追い払い、人をも癒す。人間にはできないことを彼らはしています。ハンドリングをしながらその力に気づかされました。ベアドッグが人との触れ合うことがいかに大切か実感しています」