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アメリカから「ベアドッグ」を導入。犬の力も借りてクマ対策へ

 誘引物の除去やクマの個体識別を行いながら、アメリカのベアドッグ育成機関「Wind River Bear Institute」からのベアドッグ導入に向けて動き出した。田中さんは、渡米してベアドッグのハンドリングを学び、ペアを組む犬と生活した。2004年に初代となる「ブレット」を連れて帰国し、軽井沢でベアドッグとの活動が始まった。

ピンと立った耳は上からの音も広く感知する。樹に登る習性を持つツキノワグマにも反応。 著者提供

 ベアドッグにはさまざまな仕事がある。そのなかで重要なのが「追い払い」だ。発信器による調査で、人の居住エリア近くにクマが出たことがわかったら、ハンドラーとともに近くまで行き、大きな吠え声で追い払う。ベアドッグがクマに吠えて追い払うことで、「いてはいけない場所」を教えていく。

 ベアドッグの吠え声は大きい。ハンドラーの指示のもと、クマを追い払い終えるまで、けたたましく吠え続ける。もちろん夜間も活動する。

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「23時から明け方の4時までは、発信器をつけたクマの電波をキャッチする夜間監視班とベアドッグ班に分かれて活動します。夜間監視班は、車で人とクマとのすみ分けのボーダーライン近くを走りながら林に入り、アンテナを使ってクマのいる方向を絞ります。地図上でクマのいる場所を推定し、クマがボーダーの中に入ってきたことがわかると、ハンドラーはベアドッグと出動します。暗い林の中でベアドッグと追い払いを行い、ボーダーの外に出るまで、吠えてクマに教えていくのです。今朝も、2頭のクマの追い払いを行いました」

 ここで気になるのは、ベアドッグがクマからの攻撃を受けてケガをしないかだ。ベアドッグはクマに吠えるが、襲いかかることはしない。クマと一定の距離を保つことが得意なため、クマと接触することなく追い払いができる。犬もクマも傷つかずに済むという。また、ベアドッグは別荘地も含めた人の活動エリアで追い払いを行うことが多く、交通事故などのさまざまな危険もある。そんなリスクを避けながら、クマに人に対する警戒心を植え付けるため、基本的にハンドラーはベアドッグをリードで繋ぎ、一緒にクマを追っていく。

育成時に行われる樹上のクマのにおいを見つけるトレーニング。画像提供/NPO法人ピッキオ

 罠にかかったクマに発信器をつけて森へ返す際も、ベアドッグが活躍する。クマを罠から放つときにベアドッグが吠え、人は声を出して鈴を鳴らし、クマを森の奥へと追い立てる。これは「学習放獣」と呼ばれるもので、クマは人や犬が怖い存在だと学んでいく。