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今まではアート業界で働く人を書いてきたけれど……

――主人公の優彩は、仕事を失ったばかりということもあって、ややネガティブ思考なのが印象的でした。一方、優彩のガイドを務める桐子は、アート業界に身を置いた経験もあって、仕事をテキパキとこなす女性です。二人の関係性が心地よかったです。

 ありがとうございます。この作品は、読んだ人がちょっと背中を押されたり、元気を取り戻すような物語にしたいと思っていました。なので主人公の優彩も、最初から100%順風満帆ではなくて、より読者に近い目線で、悩みながらも立ち直っていく過程を描きたかったんです。

© 文藝春秋

 桐子は元々画廊で働いていたけれど、訳あって旅行会社に転職して、「アートの旅」のガイドとして働いている設定にしました。妊娠をきっかけに生活が変わったり、その変化に折り合いをつけたりする部分は、少しだけ自分と重なるところがあるかもしれません。

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 でも、私は桐子とは全然違うタイプです。忘れ物だらけだし、こんなにテキパキ仕事をこなせる自信がなくて(笑)。私は自分と小説を切り離すことが多いので、自分自身というよりは「桐子みたいな女性がいたらいいな」という気持ちで書きました。

――一色さんはこれまで、アートをテーマにした様々な小説を手がけられていますね。『ユリイカの宝箱』で挑戦されたことや、これまでの作品と違うところがあれば、お伺いしたいです。

 これまではアート業界にいる人々を主人公にしていましたが、今回は「普段アートとはあまり縁のない人々」を中心に書きました。そんな人たちが旅先でアートに出会って、心を動かされる話を書きたかったんです。より多くの方に共感しやすいお話になっていると嬉しいです。

© 文藝春秋

 アート小説を書こうと思うと、「お仕事もの」になってしまうことが多いんです。美術館を舞台にしたとすると、主要キャラクターはどうしても学芸員やキュレーターになってしまって、仕事の話になってしまう。でも、アート小説の中に、さらに新しいジャンルがあってもいいんじゃないかと思います。