谷底に崩落している峠道
今回の震災でもっとも被害の大きかった輪島市までは地図上ではわずか30キロ、ナビの到着予定時間はあと30分の表示がでたまんま。しかしその過程はほっそい峠道である。他の海沿いのルートはおそらく土砂崩れで通行止め。いまだ余震が車に乗っていても感じるくらいである。峠で立往生してる間に土砂崩れに巻き込まれることも考えんといかん。じゃあここ穴水でとどまるのか。車内泊は当然やが、ほしたらどこに車をとめたらええんや。輪島に向かう交差点近くでただもじもじするだけであった。
時間は午後8時。それでも輪島にいるはずの家族と連絡がとれなくなった、生き埋めになっているかも、もう不安でたまらん家族らが危険を承知で目の前を通り過ぎる。ナビでは確かに道はある。再びギアをドライブに入れ、アクセルを踏み込んだ。すでに明石を出て12時間がたっていた。周囲は月明りも届かない暗黒である。そして峠道は無情にもすでに道ごと谷底に崩落していた。
気がつくのが遅れていたらそのまま車に乗ったまま谷底に真っ逆さまである。あとからつづいていた車もヘッドライトに浮かび上がる惨劇にたちすくむだけである。そしてあきらめるようにもどっていく。穴水の町中に戻る途中、赤色灯を点滅させながら進む名古屋ナンバーの消防車のコンボイとすれ違った。峠の別ルートで半島の西側、輪島まで通じているはずの国道249号にたしかに抜けられる道である。
しかしナビで見る限り、やはり道は細い。そんなとこをでっかい消防車が向かおうとしているのか。即座に引き返し消防車の後ろについた。車幅は広く、車高はそれほど高くない消防車のコンボイはたびたび止まった。そのたんびに消防士の若い衆がばらばら降りてきては手に手にスコップやつるはしを持ち、道路の裂け目を埋めたり、道をふさいでいる土砂を脇に押しのけたり、ときには倒木をチェーンソーで切りつつ進んだ。もはや対向車も来ない。ホントにこの道が輪島に通じているのか。しかし頭上の標識でもナビからも車が輪島市に入ったことが分った。あとに数台の車が続くが、ただでさえせっまい峠道である。もはやUターンするスペースすらない。
時折道路の裂け目にタイヤを取られ動けなくなった軽自動車や土砂に半分埋まった車が幽霊船みたいに乗り捨てられていた。