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東京と京都。両者の最も大きな違いは何か?

 そんな相違発見の楽しさに最初に気づかせてくれたのは、東京のあんこだった。粒あんの椀汁をしること呼ぶ(京都はぜんざい)、水羊羹に桜の葉が添えてある(京都は笹の葉)、桜餅がクレープ生地(京都は道明寺生地)、コンビニのあんまんが黒ごまあん(京都は小豆の粒あん)などなど、書こうと思えばいくらでも書けるほど在庫は豊富だ。では、両者の最も大きな違いは何か? そう問われたら、「塩気」と答えることになると思う。

 京都の人が東京のあんこを食べると、「しょっぱい」と感じることがある。京都のあんこに塩が入ることはほぼないが(入るとしてもごく微量)、東京のあんこには塩で甘さを緩和する(あるいは引き立たせる)、はっきりと甘じょっぱいものが多いからだ。

 京都の左京区に、東京生まれの北村れいこさん・渡邉裕子さん姉妹が開いた「銀閣寺 㐂み家」という甘味処がある。『あんこの本』でも大きく取り上げた一軒だ。お二人は自分たちが慣れ親しんできた東京の下町風の「あんみつ」や「豆かん」などを京都の人々にも楽しんでもらおうとこの店を始めたが、開店早々、お客さんから「塩気が強いね」という反応が立て続けに返ってきたため、とても驚いたという(現在は絶妙の塩加減に着地。地元の人気店となっているのでご安心を)。逆にお二人にしてみれば、「京都はみたらし団子のたれも、おいなりさんも甘い。ぜんざいなんて鼻の奥がきんきんする」とのことなので、やはり東京と京都では甘さや塩気に対する感覚がだいぶ違うのだろう。

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庶民が愛した東京のあんこ、茶の湯に伴った京都のあんこ

 なぜ、東京のあんこは塩気が強いのか。『砂糖の文化誌−日本人と砂糖−』(伊藤汎監修・八坂書房)によると、18世紀初めの元禄期、江戸はロンドンやパリをしのぐ世界最大の人口を擁する大都市であったらしい。しかも120万人を超えるその人口の5〜6割はまったく生産活動に従事しない徒食の武士たち。つまり都市として食糧を供給する能力は極めて貧弱だった。そこへさらに商人や職人、下層階級の人々も集まり、きんつばや大福といった実質的なあんこ菓子がもてはやされた。「江戸のおやつは庶民のものだから、塩を利かせて、ちょっとの砂糖を最大限に生かしたんでしょうね」とはれいこさんと裕子さんの見立てだ。一方、都だった京都には食材が豊富に集まり、砂糖についても御所出入りの上菓子屋を中心に安定供給され、茶の湯の隆盛も伴って砂糖を贅沢に使う上菓子文化が発展した。