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うつ病には「内因性」と「心因性」の2種類がある 

 近年ではあまり使われなくなった分類ですが、かつてうつ病には「内因性」と「心因性(反応性)」の2種類があるとされていました。字面(じづら)からお察しのとおり、過労やストレスといった心理的要因への反応としてうつ症状が出るのは、後者の心因性のうつ病。

『知性は死なない 平成の鬱をこえて』與那覇 潤 著)
『知性は死なない 平成の鬱をこえて』與那覇 潤 著)

 前者の内因性とはなにかといえば、医学的にはまだつきとめられていないのだが、とにかく脳内にあるなんらかの要因によって、極端にいえばいっさいの悩みやストレスがなくても、脳の機能障害として発生してしまううつ病です。(11)

 したがって「うつ病はストレスが原因だ」という説明は、じつは半分にしか該当しません。

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 なぜいまこの二分法が用いられないかというと、多くの精神科医が2つの病名の印象から、「内因性うつ病=脳の病気=遺伝の影響が強い=重症でなおりにくい」・「心因性うつ病=たんなるメンタル不調=遺伝よりも環境の影響=環境が変わればなおる」と考えがちでした。

 しかし実証的にデータをとってみると、あきらかにそう単純にわりきれない。そのため、予断をまねく分類はひかえようということになったのです。(12)

 内因性か心因性かをとわず、あらゆるうつ症状を包括する「大うつ病」というカテゴリーができたのは、1980年のDSM - 3という診断基準からですが、日本社会のうつ病観により影響を与えたのは、1991年の電通社員(24歳男性)の自殺をめぐって2000年の最高裁判決まで争われた、いわゆる「電通裁判」でした。(13)

 この裁判では原告側が「過労によるうつ病発症」を主張し、会社側が「自殺者は元来、うつ病になりやすい性格だった」と反論する展開をたどったのですが、最高裁は「会社側が主張する性格は、むしろ好ましい労働者像(次節参照)としても通常想定される範囲のものであり、それを理由に雇用者を免責できない」として、電通に1億6800万円の賠償を命じました。

 2015年の末にも電通では若手社員(24歳女性)が自殺し、労働基準監督署は月105時間の時間外労働によりうつ病を発症したとして、労災と認定しました。このとき「月100時間くらい、みんなふつうに残業してる。最近の若者はなさけない」という趣旨の発言をして炎上した識者がいましたが、それでは彼女の残業が月50時間だったら、25時間だったら、「なさけない」と罵倒してもよかったのでしょうか。